第405話

「王者に与えられる家は私達だけで住むには大きすぎるので、闘技場から少し歩いた所にお家を建てたんです。」


 ……そう言ったサラさんに案内されてやって来たのは、広々とした土地の真ん中にポツンと存在していた少し大きめの一軒家だった。


 そして促されるまま家の中に足を踏み入れた後、久しぶりに再会した親子は仲良く会話を楽しむんだろうなと思ってたんだが……現実はそう甘くは無かったな……!


「九条さん、過ぎた事を何度も言うのは私も嫌。それに私はお説教をするのは苦手。でも、本当に反省して欲しいから何度でも言う。九条さん、私達に何も言わないまま無茶をするのは止めて。とても、とても心配する。それに、とても悲しくなる。」


「はい……本当に……申し訳ありませんでした………」


「おぉ……わ、私、あんなに喋っているソフィさんを初めて見ました……!」


「きっと、それだけ九条さんを心配していたという事なんでしょう。はい、よければお紅茶をどうぞ。」


「あっ、すみません……うわぁ……!コレ、とっても美味しいですね!」


「うふふ、ライルさんのお口に合ったみたいで良かったです。それとソフィちゃん、お説教はそれぐらいにしてこっちで一緒にお菓子でも食べましょう。早くしないと、折角淹れたお紅茶が冷めちゃうわよ。」


「……分かった。今日はこれぐらいにしておく。」


「ふぅ……た、助かった……」


「けど、宿に戻ったら皆に報告するからそのつもりで。」


「あぁ、はい……了解しました………」


「え、えっと……とりあえず、九条さんもこちらで一緒にお茶しませんか?もしアレでしたら、私の方からも皆さんを説得しますよ?」


「……いや、大丈夫だ。後の事は自分で何とかするよ……」


 ライルさんに迷惑を掛ける訳にはいかないと考え彼女の気遣いを断った俺は、すぐ近くにあった椅子に腰を下ろすと目の前に置かれてた紅茶に口を付けていると……


「ソフィ……確かに九条さんは私の忠告を聞き入れずに黙って行動をした。しかし、それはお前達の事を思ってこそだろう。それならば、もう許してあげても良いんじゃないかと思うんだが。」


「………そんな事、ぱぱに言われなくても分かってる……でも……私は、九条さんに頼りにして欲しかった…………大切な……仲間って言ってくれたから……」


「…………」


「九条さん……ソフィさんに、きちんと約束してあげた方が良いんじゃないですか?今度何かあった時は、きちんと頼りにするって。」


 不安げな表情をしているライルさん、そして真剣な眼差しで見つめてくるソフィと目が合った俺は頭をガシガシと掻きながらため息を吐き出した。


「……ぶっちゃけ、その約束をする事は出来ない。だけど、考えてはみる……今は、それで勘弁してくれると助かる。」


「……どうして?私達、そんなに頼りない?」


「いや、そういう訳じゃない。ダンジョンとか、ある程度の危険が予想出来る所には一緒に来て欲しいと思ってる。でも、この間みたいに相手の強さがマジで分からない場所には絶対に連れて行きたくないんだ……お前達を失ったり、そうでなくても一生残るかもしれない傷跡を作ったりしてほしくないからな。」


「……それは私達も同じ。九条さんを失いたくない。傷ついて欲しくない。」


「あらあら、まぁまぁまぁ………ガドルさん、聞きましたか?ソフィちゃんがあんな事を言う様になったなんて……私、嬉しくて泣いてしまいそうです。」


「……私も色んな意味で泣いてしまいそうだよ。」


「ちょ、ちょっとお2人共!今は大事な所なんですから、シーですよ!」


「……ライルさん、気を遣ってくれてる所で悪いんだがちゃんと聞こえてるからな?ってか、俺は皆が見ている前でなんつー恥ずかしいやり取りをして……!今すぐ……消えてなくなりたい……!」


「ダメ、何処にも行かせない。絶対に九条さんから離れない。」


「あらあら!まぁまぁまぁ!」


「……九条さん……」


「いや!そんな風に睨まれなくても分かってますから!それとサラさん!何で興奮をしているのか知りませんが、とりあえず落ち着いて下さい!あぁもう……!どうしてこんな事になったんだ……!?」


「それはまぁ……九条さんのせいだと思いますよ……あはは……」


 苦笑いを浮かべているライルさん、そして瞳をキラキラさせながら興奮をしているサラさんと反対に鋭い目つきを送ってきているガドルさん、それからこっちをジッと見て来ているソフィというカオスな状況に囲まれてしまった俺は……ただひたすらにこの場をどう収めたら良いのか頭を悩ませる事になるのだった……!

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