第385話
「……かしこまりました。敷地内とは言えお外は暗いですから、足元にお気を付けていってらっしゃいませ。」
「はい、それではまた…………よしっ、行くぞ。」
「ふむ……なぁ九条よ、ここに至るまでの間に何人かの使用人と同じ様なやり取りをしておったが本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、これで良いんだよ。黙って姿を消したりすれば、ソレを怪しまれて大側索が始まっちまうだろうからな……それにお前に息抜きをさせる為に中庭の方で外の空気でも吸ってくるってらしい理由を色んな人に伝えておけば、マホとソフィに勘づかれそうになったとしてもある程度の時間稼ぎは出来るだろ……多分な。」
「お主……そこは確信をもって断言すべき所ではないのか?どうにも先行きが不安になってくるのう……」
「しょ、しょうがねぇだろうが……色々とやらかしてきた過去があるから、こういう時に何を言っても怪しまれる可能性が高いんだ……だから注意してくれよ……ここでバッタリ遭遇でもしちまったら、確実に後を付けられるだろうからな……」
「はぁ……そこまで信用が無いと言うのも悲しい話じゃのう……」
「やかましいわ、そんな事よりもさっさと行くぞ。死神の捜索のせいで警備が手薄になってるこの瞬間しか、誰にも見つからず外に出るチャンスは無いんだからな。」
呆れた様に首を左右に振りながらため息を零しているレミに若干イラっとしながら廊下を進んで行くと、不意に腰のあたりをポンポンと叩かれた。
「そう言えば九条、武器はどうするんじゃ?まさか丸腰で行くわけではあるまい?」
「……武器はもう人目に付かない場所に移動してある。」
「おっ、そうじゃったのか?……しかし、それはそれで怪しまれんか?お主の武器が無くなっておれば、マホとソフィに……」
「まぁ、バレるだろうな……だから見た目や重さがそっくりの偽物を、俺が借りてる部屋に置いてきてある。それで何とか誤魔化せるはずだ。」
「なんと……何時の間にそんな物を用意しておったんじゃ?」
「あー、確かロイドが倒れたその日には加工屋で依頼をしておいて……出来上がった物を受け取ったのは2日前ぐらいだな。」
「ほう、そんなにも早い段階で作成を頼んでおったのか……用意が良い奴じゃのう。その時はこうなるとは知らんかったはずじゃろ?」
「そりゃあな……だが、立ち止まって後悔だけはしたくないからな。やれる事があるなら何でもやるさ……っと、お喋りはここまでだ。そろそろ玄関ホールに着くぞ。」
「むっ、そうか……九条、屋敷を出た後は?」
「警備隊に見つからない道順で街の外に出る。流石に見た目がお子様のお前を連れて街中を歩き回る訳にもいかないからな。」
「見た目に関してはお主に言われたくは無いが……分かるのか?」
「あぁ、言っただろ?やれる事は何でもやるって……お前がついて来る可能性を最後まで捨てきれなかったら、きちんと調べておいたんだよ。」
「ふっ、なるほどのう……そういう事ならば案内は任せたぞ。」
「おう、それじゃあとっとと外に………って、えっ?」
「……九条様、レミ様、こんばんは。こんな夜更けにどちらへ?」
「あぁ、えっと……」
ヤベェ……!カームさんとこんな所で遭遇する何て考えても無かったから、思わず言葉に詰まっちまった……不審がられる前にさっさと言い訳をしておかねぇと……!
「すまんな、カーム。しばしの間、九条と共に中庭を散歩でもしながら外の空気でも吸ってくるわい。ロイドの容態も少し安定してきたから、今の内にのう。」
「……そういう事でしたか。確かにレミ様は、連日ロイド様の為に頑張って下さっていましたからね。本当にありがとうございます。」
「ふっ、当然の事をしておるだけじゃから礼などいらぬよ。それよりも、お主の方は大丈夫なのか?しばらく寝ておらんのじゃろう?」
「……ご心配には及びません。ロイド様の為ならば、これぐらいは平気ですから。」
「……カームさん、あんまり無理をし過ぎないで下さいね。貴方が倒れでもしたら、ロイドは自分の事を責めてしまいますから。」
「ふふっ、かしこまりました。それでは、私はこれで失礼させて頂きます。」
「はい、それじゃあ俺達もこれで。」
互いに頭を下げてからゆっくり歩き出した俺達は、誰も居ない玄関ホールに足音を響かせながらカームさんとすれ違って扉に向かって行った……
ふぅ……どうにか切り抜けられたみたいだな……これで後は門番が交代する瞬間を狙って屋敷を抜け出して
「あぁそうだ、最後に1つだけよろしいでしょうか?」
「はい?どうかしました……か……………っ!」
「………ふむ………」
扉まであと一歩という所で声を掛けられてパッと振り返ってみると……そこには、どういう訳か真剣な眼差しでこっちを見つめて来ているカームさんの姿が………
「……九条様、レミ様……どうか覚えておいて欲しい事がございます。」
「……何……ですか?」
「……九条様とレミ様は私達にとって……エリオ様、カレン様にとって……マホ様、ソフィ様……そしてロイド様にとって掛け替えのない人であるという事を……どうか忘れずにいて下さい……そして必ず……必ず、ここにお戻りになって下さい。」
真っすぐに……ただ真っすぐに言葉をぶつけてきたカームさんと目を合わせたまま身動きが取れずにいた俺は……大きく吸った息を数秒掛けて吐き出すと…………
「………この先、何が起きたとしても……あいつ等の事、よろしくお願いします。」
「…………かしこまりました。」
カームさんは静かに目を閉じて深々と頭を下げると……そのまま廊下の奥の方へと歩き去って行くのだった………
「……どうやら、全てを見破られたみたいじゃな。」
「あぁ……その上で見逃してくれたんだ……これで、安心して行けるよ。」
「うむ、そうじゃな……」
俺達はカームさんがさっきまで立っていた方に向かって軽くお辞儀をすると、扉を開いて外に出て行き大きくて綺麗な満月に照らされながら走り始めるのだった。
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