第372話

 翌朝、何時もの様に家事をこなしてから大通りまでやって来た俺達は何をするでもなく本屋や服屋を巡ったりして適当に街中をブラブラと歩き回っていたんだが……


「はぁ……どうやら想像していたよりも早く噂が広まっているみたいだな……」


「えぇ……その原因は多分ロイドさんのファンの方達なんでしょうね……」


「そりゃそうだろ……ってか、ソレ以外に無いだろ……」


 さっきからロイドの結婚を嘆いたファンの連中が泣き叫びながら何度も声を掛けてきてる訳なんだし……って言うか、どんだけショックを受けてんだよ……


「恐らく、貴族同士の噂話がファンにまで伝わってしまったという事なんだろうね。ふふっ、それにしてもこんなにも私を愛してくれている人が多いなんてね。」


「はっはっは……お前が嬉しそうで何より……だが問題は、ロイドの一番のファンと言っても過言ではない奴にも噂が伝わってるだろう事で……」


「ロ、ロ、ロ、ロイド様ああああああああああああ!!!??!?!!!!」


「うへぇ……噂をすれば何とやらかよ………」


 誰にも聞こえない様にそんな事を呟きながら声が聞こえてきた方に皆で振り向いてみると……物凄い勢いでこっちに突っ込んで来る人影とその後を必死に追いかけてるもう1つの人影が視界に飛び込んできて……


「やぁ、リリアとライルじゃないか。しばらくぶりだね。元気にしていたかい?」


「は、はい!勿論ですわ!ってそんな事はどうでもよろしいんです!ロ、ロイド様!何処の馬の骨とも知らぬ愚物と結婚なさると言うのは本当の事なのですかっ!?私、そんなお話は一度も聞いた覚えがございませんよ?!そうですわよねライルさん!」


「はぁ……はぁ……は、はひぃ………」


「ロイド様!どういう事なのか教えて下さいませ!いえ、嘘だと仰って下さいませ!でなければ私、この場で命を散らせていただきますわ!」


「ちょ、ちょちょちょっ!刃を自分の首元に当てながら物騒な事を言うんじゃない!ぐっ、このっ!どっからこんな馬鹿力が出てくんだよ!?」


「お、落ち着いて下さいリリアさん!早まっちゃダメです!」


「離して下さいませ九条様マホ様!ロイド様が誰かのものになってしまう世界に私の生きる意味はございませんわ!」


「わ、分かった!分かったから落ち着け!ロイド!早く事情を今すぐにっ!さっさとしないとライルとそこで黙々と命を断とうとしているリリアがくたばっちまう!」


「ソフィさん……お願いです……ロイドさんが結婚してしまう世界なんて……」


「ダメ、離さない。」


「ふぅ、ヤレヤレだね。」


 暴走ってか錯乱状態に陥っている2人に呆れながらもロイドが事情を説明すると、どうにか冷静さを取り戻してくれて手にしていた武器を収めてくれた……


「そ、それではロイド様……結婚はしないという事で……よろしいのですか?」


「あぁ、そもそも大切な友人である2人に黙って結婚をするはずが無いだろう。」


「はうっ!た、大切な友人……!あ、ありがとうございますロイド様!それと皆様、非常にお見苦しいお姿をお見せしてしまい申し訳ございませんでした……」


「す、すみませんでした……」


「い、いやいや……それにしても驚いたな。2人がこんな噂を信じるだなんてさ……ちょっと調べたら真相ぐらいすぐに分かるだろ?」


「そ、それがその……調べた結果、本当かもしれないという結論に至りまして……」


「えっ、それはどうしてなんですか?」


「実はロイドさんと結婚するかもしれないと噂になっているお相手が、近々トリアルに訪れるという情報を得まして……それで慌てて真相を確かめに……」


「な、なるほど……って、トリアルに来る?それ本当なのか?」


「私達が調べて得た情報によればですけど……」


「ロイドさん、エリオさんからそれらしい話は聞いてましたか?」


「いや、初めて聞いたよ。」


「……ソイツの目的は?」


「分かりませんわ……もしかしたらロイド様と結婚をする前に顔合わせをする為だという噂もありますが……そんなご予定はないんですよね?」


「うん、父さんからもそんな話は聞いていないな。」


「まぁ、そんな予定が入ってりゃ実家に帰った時に教えてくれるわな。」


「ですよね……それじゃあ、その人は何をする為に来るんでしょうか?」


「うーん……分からないですけど、あんまり良い予感はしませんよね……」


「……仕方ない、明日また実家に行ってみるとするよ。」


「あぁ、そうした方が良いだろうな……って、もうそろそろ移動するか。今さっきのやり取りで注目を集めちまったみたいだからな。」


「あっ!す、すみませんでした!そ、それでは私達はこれで……」


「ちょっと待ってくれ、心配して来てくれた2人をこのまま帰す訳にはいかないよ。もし良かったら、私達と一緒に買い物に行かない。」


「えっ!よ、よろしいんですかロイド様!」


「うん、九条さん達もそれで良いかい?」


「はい!大丈夫ですよ!」


「私も問題ない。」


「俺は……一足先に帰っても良いか?」


「はぁ?!何を言ってるんですかおじさん!」


「いや、だってよぉ……この輪の中に俺が居るのはどう見たって不自然だろうが……それに精神的にも色々とキツイと言うかだな……って、オイ!?」


「はいはい、文句は後で聞きますからお買い物に行きますよ!」


「九条さんを1人にはさせない。」


「そ、その心遣いは嬉しいけど両腕をガッツリ掴まないでくれませんかね!?」


「ふふっ、それじゃあ九条さんも問題無いみたいだから行くとしようか。」


「はい!分かりましたわロイド様!何処までもお供致します!」


「え、えっと……それじゃあついて行かせてもらいますね。」


 そんなこんなでマホとソフィに両腕をガッツリと掴まれながら、美少女に囲まれて街中を歩き回る事になった俺はとんでもない居心地の悪さを感じながら今スグにでも逃げ出したい衝動に襲われ続けるのだったっ……!

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