第363話
ガドルさんに言われた通り受付で手続きを済ませた俺は、職員さんの案内に従って以前に来た時も使用した控室にやって来ると闘技場専用の武器が収められている棚を眺めながらついさっきあった出来事を思い出していた。
「どうも九条さん、お待ちしていましたよ。」
「ガドルさん……どうして貴方がここに……貴方の控室は反対側のはずでは……」
「そうなんですが、実は少々ご相談したい事があったものですから。」
「……相談?」
「えぇ……今回の勝負、ある程度の時間が経ったらワザと負けてもらえませんか。」
「……何ですって?」
「闘技場のシステムのおかげで私達のレベルが同等になるとは言え、それでも貴方が私に勝つ見込みは万に一つもありません。ですので、九条さんには一芝居してもらいたいと思っているんです。貴方だって、無駄に痛い思いはしたくありませんよね。」
「………」
「それに、九条さんのそんな姿を見ればソフィも幻滅して貴方達の事を諦められると思いますから。」
「っ!貴方は……!」
「ははっ、そう怒らないで下さい。私はただ、真実を告げているだけ……それでは、要件はお伝えしたので失礼させて頂きます。お返事、期待していますね。」
そう言って親しみを感じさせる様に微笑みかけてきたガドルさんの姿を思い出してギリっと歯を食いしばった俺は、何時も使っている刀と同じぐらいの大きさと長さがあるブレードを手にするとソレを専用の鞘に納めて腰に差した。
『九条選手、ガドル・オーリア選手、準備が整いましたら会場までお越し下さい。』
「……ふぅ……」
俺は静かに目を閉じて深呼吸をしながら荒れていた心をゆっくりと静めていくと、控室を後にして目の前にある暗い通路を真っすぐ進んで行くのだった。
……それから少しして太陽の明かりの下まで出て来た俺はガランとしている客席で不安そうにこっちを見ている皆の事を確認すると、真正面に向き直ってからそのまま歩き続けて4本の石柱に囲われている会場に足を踏み入れた。
そして殺意にも似た威圧感を放ちながらショートブレードを片手に持ってニコっと微笑みかけてきているガドルさんと対峙するのだった。
「ははっ、こうして誰かと私闘をするのは久しぶりなんで少しドキドキしますね。」
「……ガドルさん、勝敗の決め方は。」
「おや、雑談に付き合ってくれる気は無いと……仕方ありませんね、それでは簡単にご説明させて頂きます。とは言え勝敗の決め方は至って単純、どちらかが敗北を宣言するか致命的な攻撃を受けて意識を失うかの2択です。」
「……闘技場のイベントにあるポイント制度は無いって事ですか。」
「はい、その通りです。本当はソレも導入しようかと思っていたんですが、あろうがなかろうが結果は変わらないので取り入れませんでした。」
「……なるほど。」
要するにだ、どっちにしたって俺が負ける事は変わらないって言いたい訳かよ……随分と舐められたもんだな……
そんな事を思いながら腰に差していたブレードの持ち手を握り締めた直後、会場を取り囲む様に設置してあるスピーカーからノイズ音が聞こえてきた。
『……これより、九条透選手とガドル・オーリア選手の私闘を始めたいと思います。両名とも、武器を構えて下さい。』
「……いよいよですね。九条さん、ソフィの為によろしくお願いしますよ。」
「……えぇ、分かってます。」
ブレードを抜き出して両手で握り締めながらガドルさんと向かい合った俺は、短く息を吐き出すと奥歯をグッと噛みしめた……そして……!
『それでは……私闘開始!』
気合の入った合図の声と共にスピーカーから甲高いブザーの音が鳴り響いた瞬間、石柱の間に透明な壁が張り巡らされて俺達の私闘が始まるのだった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます