第351話
普段から利用している本屋や市場、そしてお世話になっている親父さんとシーナを紹介したりしているとガドルさんから斡旋所に連れて行って欲しいと言われたので、俺は頼まれた通りに2人をそこまで案内した……までは良かったんだが……
(……なぁマホ、俺はどうしてこんな所に来ちまったのか聞いても良いか?)
(もう!何をバカな事を言っているんですかご主人様!さっきガドルさんに誘われて高難易度のクエストを受けたのを忘れたんですか!?そんな現実逃避をしている暇があるのなら、目の前に居る大量のモンスターに集中して下さい!危ないですよ!)
(あー……うん……いや……コレ、危ないかなぁ………?)
「なるほど、高難易度とは言ってもモンスターの強さはこの程度か。これなら数分もあれば片付けられるな。」
「うん、どっちが多く倒せるか勝負。」
「ははっ、しょうがないなぁ。それなら少し本気を出すとしようかな。」
「ソフィちゃ~ん、ガドルさ~ん、怪我だけはしないで下さいね~」
身の丈に合っていない大きな杖を片手に持ちながら小さく手を振ってるサラさんの隣に立って武器を構えながら苦笑いを浮かべて首を傾げている俺の視界には、素早い動きで群がっていた大量の植物系モンスターを次々と斬り刻んでいく父娘の姿が……
(ガドルさんが受付で一番難しいクエストをお願いしますって言い出した時はマジで頭がおかしいんじゃねぇかと思ったんだが……Bランク闘技場の王者ってのはやっぱ凄いんだなぁ……)
(いやいや、感心している場合じゃないですよご主人様!こんな所で見守ってないで戦いに行かないと!)
(む、無茶を言うなよ!?あんな激戦地に突っ込んで行くなんて正気の沙汰じゃねぇってのは分かるだろうが!ここはサラさんの身を護る為に……待機一択だっ!)
(何を情けない事を言っているんです……あぁ!さ、最後のモンスターが!)
(うへぇ……標的を見つけてから1分も経ってない気がするんですけど……)
顔を引きつらせている俺の目の前で呼吸も乱さず周囲を軽く見渡して武器を収めたガドルさんは、少しだけ荒くなってる息を整えているソフィを見つめながらニコっと微笑みかけた。
「どうやらこの勝負、私の勝ちみたいだね。」
「……うん、ぱぱの方が倒したモンスターが10体も多い。」
「ははっ、そんなに落ち込む事は無いよソフィ。2人もそう思いますよね。」
「えっ!?え、えぇ、そうですね……俺なんて1体も倒せてませんし……」
「うふふ、2人共お疲れ様でした。怪我はしてない?」
「あぁ、私もソフィも無傷だよ……さてソフィ、昼時を迎えるまでにはまだ少しだけ時間があるから久しぶりに模擬戦でもしてみないかい。」
「……はっ?!いや、ちょ、ちょっと待って下さい!こんな所で模擬戦って……それマジで言ってますか!?」
「はい、幸いにも倒したモンスターを納品すれば場所的に問題無さそうですから。」
「あ、いやそういう問題じゃなくてですね!こんな所で模擬戦をしている所を誰かに見られたら、通報されて捕まるかもしれませんよ!ほら、私的な決闘は闘技場以外は禁止になってますから!」
「うふふ、大丈夫ですよ九条さん。この辺りは高難易度クエストの討伐対象になっているモンスターが出現する街の裏側ですから、滅多な事が無ければ誰も来ません。」
「そ、それはそうかもですが……ってまさか、それが狙いで……?」
「闘技場でやると騒がれてしまう可能性もありますし、訓練場でやるには場所として小さいですからね。ソフィの相手をするならこれぐらいの広さが必要なんです。」
「いや、でも……」
「九条さん、ぱぱと模擬戦をするのは久しぶりだから……ダメ?」
「ぐっ……!」
そ、そんな捨てられた子犬みたいなウルウルした瞳で俺を見ないでくれ!ってか、表情が珍しすぎて反応に困るんですけど!?
(ど、どうしますかご主人様?2人共、やる気満々みたいなんですが……)
(……あぁもう、ここに誰も来ない事を祈るしかないか……)
「……九条さん……」
「……分かった……分かったから……ったく……けど、絶対に怪我はするなよ!後、人の気配がしたらすぐに止める事!それぐらいは出来るだろ?」
「っ!……うん、任せて。それじゃあ……よろしくお願いします。」
「うん、今のソフィが出せる全力をぶつけて来るんだ。」
「はぁ……全くもう……」
「うふふ、ソフィちゃんの心配をしてくれてありがとうございます九条さん。」
「いや……それよりも、ガドルさんとソフィは前から?」
「えぇ、誰も来ないであろう広い場所を見つけては……昔はソフィちゃんが力加減を間違えて怪我をしてしまう事もあったんですが、今は……大丈夫そうですね。」
「そうだと良いんですけどね……」
(うぅ……何だかドキドキしちゃいます……)
まさかの展開に驚きを隠せないまま使う機会の無かった虎徹丸という名の刀を鞘に納めた俺は、周囲の空気がピリピリと張り詰めてきたのを肌で感じながら同時に動き出した2人の事を静かに見守るのだった……
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