第313話

「マホよ、こっちのおかしも美味いがそっちのはどんな感じなんじゃ!」


「えへへ、とっても美味しいですよ!レミさんもお1つどうぞ!」


「うむ!……ほほぅ!中にちょこれーとが入っておるのか!これは中々じゃな!」


「ですよね!あっ、レミさんが食べているおかしを貰って良いですか?」


「勿論じゃ!ほれ、食べてみるがいい!」


「ありがとうございます!……うぅ~ん!甘さ控えめなのに美味しいですね!」


「そうじゃろう、そうじゃろう!では次はどのおかしを……」


「レミ、あんまり食べ過ぎると晩御飯が入らなくなってしまうよ。」


「はっはっは、その様な心配はせずとも大丈夫じゃよ!それよりもロイドとソフィもこのおかしを食べてみるのじゃ!」


「ふふっ、しょうがないな。それじゃあ、お言葉に甘えて1つだけ……うん、確かに美味しいね。」


「……マホ、そっちのも1つちょうだい。」


「はい!ロイドさん、どうぞ!おじさんもいかがですか?」


「お、おう……ありがとな………」


 王都を出発してからかれこれ1時間ぐらい経つはずなんだがマジで微動だにしない3人組を真正面に見据えたまま右隣に座っていたマホからおかしを受け取った俺は、ソレを口の中に放り込みつつバレない様に注意しながら彼らの様子をうかがってみた。


「………」


「………」


 うーん、恐らく両親であろう2人はずっとうつ向いたままなんだけど……その間に挟まれた子供はさっきから俺達の方、って言うかマホとレミが食べ続けてるおかしに興味があるのかチラチラと見ている気が……


「……っ!」


 あっ、目が合った瞬間に凄い勢いで顔を逸らされちまった……何だろう、悪い事をしてる訳では無いと思うんだが罪悪感が……


(ご主人様、あの人達の事が気になるのは分かりますけどジロジロと見ていたら失礼ですよ。)


(そ、そうだよな……いや、俺も他所様の事情に首を突っ込む気は無いんだがずっとあの状態で座ってられると嫌でも目に入っちまうと言うかさ……つーか、あの人達はどうしてフードを被り続けてんだろうな。)


(それこそ余計なお世話ってやつですよ!それに、そんなに気になるなら思い切って尋ねてみたら良いじゃないですか。)


(そ、それはちょっと……初対面の人にいきなりどうしてずっとフードを被っているんですか?なんて失礼だと思うし……何より恥ずかしいし……)


(でしたら、あの人達の事はなるべく見ない様にして下さいね!ご主人様のせいで、馬車の中の雰囲気が悪くなってしまっては大変ですから!)


(お、おう……)


(ふふっ、マホに怒られてしまったね。)


(仕方ない。)


(あぁ……ごもっとも過ぎて返す言葉もねぇよ………)


「はっはっは、そんなに落ち込むでない!ほれ、コレでも食べて元気をっとと!?」


「きゃあ!」


「な、何だ?!」


 頭の中でしてた会話を神様としての力なのか何なのか分からないが聞いてたらしいレミがその流れを無視して声を掛けてきた事に呆れそうになったその瞬間、いきなり馬車が急停車して床の上におかしがボロボロと落ちて行ってしまった!


「あぁ!わ、わしのおかしが!!これ御者よ!どうして馬車を急停車させたのじゃ!お主のせいで折角のぉ……!」


「す、すみません!少し先の方にモンスターの姿が見えまして!」


「モンスターだって?九条さん、ソフィ!」


「分かってる!マホ、レミ、少しだけここで待っていてくれ!」


「は、はい!皆さん、お気を付けて!」


「馬車がわしが護っておるから、安心して行ってくるんじゃ!」


「うん、よろしく。」


 幼い少女に馬車の護衛を頼むというおかしな状況に訝し気な視線を向けられている気がしながら武器を手にして外に出た俺達は、急いで運転席に座っている御者さんと合流するのだった。


「それで見かけたというモンスターは何処に……って、もしかしてアレですか!?」


「そ、そうです!皆さん、討伐をお願いします!」


「え、えぇっ?!た、確かにそういう約束はしましたけど、アイツを相手にするのは流石にヤバい気がするんだがそこら辺はどう思うよ!?」


「ふふっ、アレ程の大物となると腕が鳴るね。」


「わくわく、わくわく。」


「ちきしょう!既に臨戦態勢になってやがるだと?!」


「さぁ、行くよ!」


「ふっ!」


「ぐっ!あぁもう!」


「皆さん頑張ってくださいね!」


 御者さんの声援を聞きながら先走って行っちまった2人を背中を急いで追いかけた俺の視界には、全身が真っ赤な羽の生えた人ぐらいの大きさがあるトカゲ……簡単に言っちまえばドラゴンらしきモンスターの姿がありやがった訳でしてええええ!?


「うおおおっ!?」


 俺達が近寄って来ている事に気が付いたモンスターは大きな羽を動かして空に飛び上がると、大きく口を開けて炎を吹き出して来やがった!?


 肌がひりつく様な熱風を浴びながら横に飛んで攻撃を避けた俺は、同じ様な行動を取ってすぐ近くに立ってたロイドを見てみたんだが……!?


「良いね、面白いじゃないか!」


「た、楽しんでる場合かこのアホ!?さっさとアイツを討伐しないと馬車が燃やされちまうぞ!!」


「そうはさせない。」


 背後でそう呟くのが聞こえたと思った直後、一瞬で風をまとったソフィが俺達の間を走り抜けてドラゴンに向かって一直線に突っ込んで行っちまった!


「九条さん、ソフィの援護に回るよ!」


「分かった!」


 ロイドの言葉を合図にバッと右手をドラゴンの方に向けた俺は、目の前に魔方陣を出現させてそこから先の尖った氷を幾つか射出してやった!


 ソフィとその攻撃を見たドラゴンはまたまた口を大きく開いたが、ロイドが放った魔法の植物に足首を掴まれてしまい俺達に向かって吹き出される予定だった炎は空に向かって行く事になるのだった!


 そして空中で体勢の崩れたドラゴンの隙が見逃されるはずも無く、ソフィは力強く地面を蹴りつけるとドラゴンの右羽をあっと言う間に斬り落としてみせた!


 断末魔の様な雄叫びを上げながらドスンと音を立てて落下したドラゴンはしばらく暴れ回った後に血走った目で俺達を睨みつけると、4本の手足を使ってこっちに走り出そうとしていたが……


 風を切る感じで降りて来たソフィが手にしていた2本のショートブレードが首元に突き刺さってしまい、問答無用で絶命させられてしまうのだった。


「………これで問題は解決……って事で良いんだよな?」


「うん、他にモンスターの影も見えないからね。」


「だよな………ふぅ、まさかダンジョンでもないのにこんな大物といきなり出くわすなんて思いも」


「きゃあああああ!!」


「っ?!マホ!?」


 馬車の方から聞こえてきた叫び声を聞いて反射的に駆け出した俺は、モンスターを見落としていたのかもしれないという後悔に襲われながらマホとレミの無事を必死に祈りながら荷台に乗り込んで行って……


「あ……あっ……うぅ…………」


「す、すみません!すみません!」


「あ、あの!騙していた訳じゃないんです!ただ、どうしても言えなくて!」


「い、いえいえ!こちらこそ急に大きな声を出したりしてすみませんでした!」


「…………えっ、どういう状況?」


 武器を片手に唖然としながら立ち尽くしている俺の視界には……さっきまで戦っていたドラゴンと似た容姿をした小さな子を両側から抱きしめてる2人の男女と、その姿を前にオロオロしているマホと座席に座って偉そうにしているレミの姿が……


「おや、これはこれは……」


「……どういう状況?」


「………さぁ………」


 遅れてやって来たロイドとソフィの問いかけに対し、俺はただただ首を傾げながら困惑するしかなかった訳で………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る