第282話
「ご主人様!私達を置いて1人で逃げるなんて酷いじゃないですか!」
「そ、そんなに怒るなって!悪かったよ!反省してる!この通り!すまなかった!」
「むぅ……本当にそう思ってるんですか?」
「勿論だって!だからこうして当番でも無いのに昼飯を作ってお前達の帰りをずっと待っていた訳だし……なっ、今回の件はコレで勘弁してくれよ。」
「まったくもう……ロイドさん、ソフィさん、どうしますか?」
両手を合わせて低姿勢になりながらそう言葉を掛けるとぷっくりと頬を膨らませていたマホは静かに息を吐き出しながら振り返り、後ろに立っていた2人の方に視線を向けていった。
「ふふっ、九条さんも反省している様だし私は許してあげても良いんじゃないかなと思っているよ。」
「私も構わない。」
「はぁ……まぁ、そうですね、分かりました、私も許してあげる事にしますよ。」
「ほ、本当か!?」
「はい。たーだーし……次はありませんからねっ!」
「お、おう!分かってるって!」
どうにかこうにか面倒事を押し付けた罪が許された後、俺は我が家の浴室を使って汗を流した皆と一緒に昼食を食べ始めるのだった。
「う~ん!いっぱい動いた後のお昼は格別ですね!」
「お前はほとんどスマホの中だったろうが………ってそう言えば、あの後って結局はどうなったんだ?アイツの事だから、俺が何処に逃げたのか教えろとか言ってきたんじゃないのか?」
「いや、彼だったらあの後すぐに斡旋所を出て行ってしまったよ。」
「え、そうなのか?でもどうして……もしかして、俺を探しに?」
「そう言う訳じゃなくてですねぇ………こう、ロイドさんにグッと手を握られて至近距離から見つめられて……」
「九条さんはそんなに悪い人ではない。仲間である私達が保証してみせるよ……そう言ったら、凄い勢いで手を振り解かれてしまい何処かに行ってしまってね。」
「あー……なるほどねぇ………」
つまり中二病を患っている思春期の男子にロイドの爽やかイケメン美少女オーラを間近でぶち当てたと…………うん、そりゃキャパオーバーして逃げ出すわな。
「その後はエルアから色々と事情を聞いて、家に帰って来た。」
「事情ねぇ……そもそもの話、あの2人ってどういった関係なんだ?」
「あぁ、彼らは昔からの幼馴染らしいよ。互いの両親が顔見知りだった事もあって、そこからの縁みたいだね。」
「へぇ……それなら2人でひと夏の思い出作りでもしてろよな……ケッ!」
「もう、みっともないから幼馴染って響きだけで嫉妬しないで下さいよ。」
「そ、そんな事はしてねぇし!それよりも事情ってのを詳しく聞かせてくれよ。まぁ大体の話はさっき斡旋所で聞いたけどさ……俺が原因でエルアが変わっちまったとかどうとか……はぁ、どうしてそんな勘違いをしたんだか。」
「ふふっ、別に勘違いという訳でも無いんじゃないかな。実際に彼女は私達と修行をして心身共に強くなったんだからね。」
「それならそれで喜んでやれば良いのに、どうしてそれを悪影響だなんて思った……あの記事のせいか……」
「読んでみた感じ色々と脚色されまくってましたからねぇ。それに取材を受けたのがあのイリスさんですから、そこも影響しているんじゃないんですか。」
「はぁ……勘弁してくれよ………」
女性と付き合った事が1度も無いのにどうしてそんなハーレム野郎みたいな扱いを受けなくちゃいけないんだ!マジで恨むぞ……イリスにオレットさん……!
「それで九条さん、今後はどう対応していくつもりなんだい?」
「……どうするも何も、アイツの勘違いを解かないとこの夏はずっと付きまとわれる事になるんだろ?」
「あっ、それなんですが……クリフさんは明日の朝には王都に帰るみたいですよ。」
「………え、そうなの?」
「はい。クリフさんは夏休みの間はお家のお手伝いをしなくちゃいけないみたいで、トリアルにずっと居られるって訳じゃないみたいです。」
「休みを取れても週に2日程度みたいだね。」
「…………なーんだ!それならそうと早く行ってくれよぉ!あー心配して損した!」
「はっ?ちょ、ちょっとご主人様?何をホッとしているんですか?」
「いやだって、アイツの相手をしなくても明日の朝には居なくなってるだろ?それに貴重な休みを無駄にしたって、今回の事で理解したはずだしさ!」
「うわぁ……その考えはちょっと甘すぎじゃないですかね……」
「何とでも言うがいいさ!あぁ、それよりエルアも王都に帰るのか?」
「うん、そう言ってた。」
「エルアさんはクリフさんにご主人様に会わせろと言われて付き添って来ただけで、本当は王都から出る予定は無かったそうです。」
「しかし九条さんがクリフ少年に悪者だと決めつけられてしまったから、その誤解を何とかする為にトリアルまで来たそうだよ。」
「そうなのか……いやぁ、それは悪いことをしたなぁ。また会う機会があればお詫びとして何かご馳走してやるとするか。」
そんな事を言いながら肩の荷が下りてスッキリとした俺は、その後は一歩も外には出ずに1日を終えるのだった。
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