第245話

「え、えっと……その、どうして九条さんとマホさんがこちらに?」


「あぁいや、俺達は知り合いに連れられて来たって感じなんだけど……え、シアンはどうしてここに?」


「わ、私は……って、そうでした!あ、あのお2人共!お姉様の事をお見掛けになりませんでしたか!?」


「お、お姉様?アリシアさんの事か?」


「はい!」


「うーん、俺は見て無いけど……マホはどうだ?」


「私もそれらしい人は見てませんね。」


「そ、そうですか……はぁ……」


「……シアンちゃん、さっき店主の方にも同じ事を聞いていたみたいですがアリシアさんがどうかしたんですか?」


「話の流れからアリシアさんを探してるんだろうなっては分かるんだが……」


 俺達の問いかけに応えるべきか悩む様な素振りを見せていたシアンだったが、少し時間が過ぎるといきなり頭をガバッと下げてきた?!


「突然ご迷惑だとは思いますが、私と一緒にお姉様を探して下さいお願いします!」


「はい!分かりました!」


「返事が早っ!?いやまぁ別に良いんだけどさ……」


「ほ、本当ですか?!」


「勿論ですよ!困っているシアンちゃんを見捨てる事なんて出来ませんもんね!」


「あぁ、そうだな………ってかそもそもの話、シアンはどうしてアリシアさんの事を探してるんだ?何かあったのか?」


「……実は少し前の事になるのですが、お姉様が視察を兼ねて海の家の方にお出掛けになられたんです……ですがしばらく経ってもお戻りにならなくて……」


「なるほどねぇ……入れ違いになったとかって事は無いのか?」


「はい、その可能性は低いと思います。私達が先ほどまで居た場所はここからすぐの所ですので、お姉様の姿を見落とすという事は無いと思います。」


「うーん、だとしたら……アリシアさんは何処に行っちゃったんでしょうかね?」


「そうだな……アリシアさんが居る可能性が……あると……すれば…………」


「……あの、九条さん?向こう側の海岸を見つめてどうかしたんですか?」


「おじさん、もしかして何か心当たりがあるんですか?」


「いや、まさかとは思うんだけど………でもなぁ…………可能性の1つとしては……アリだと考えてもいいのか……?」


 俺は立札の向こう側に伸びている人が居ない海岸を見つめながら眉をひそめると、首を傾げながら腕を組み右手で口元にやった。


「もう、悩んでる暇があるなら早く行きましょうよ!ほら、早く!」


「あ、でもマホちゃん。あの立札には関係者以外の立ち入り気を禁止するって書いてあるみたいだよ。」


「そんなの関係ありませんよ!アリシアさんがピンチなのかもしれないんですから!ここでモタモタしている暇はありませんよ!ね、おじさん!」


「………そうだな。怒られたらその時に謝れば大丈夫だろ。」


「そ、そんな軽い感じで良いんでしょうか?」


「良いんです!さぁ、アリシアさんを探しに行きますよ!」


「わ、分かりました!」


 背後に視線を向けて誰にも見られてない事を確認した俺は、少し先の方を走ってる2人と急いで合流すると海岸の奥の方に進んで行った。


「………し……さい!」


「……わ……れよ~」


「……には……さ!」


「く、九条さん!人の声が!」


「あぁ、分かってる……っと、こっからはなるべく足音を立てない様に行くぞ。」


 弧を描く様に伸びてる海岸を歩き始めた俺達は、右側にある雑木林を利用して身を隠しながら慎重に先の方を覗き込んでみた……するとそこには………


「いい加減にして下さいませんか!本当に迷惑ですわ!」


「だ~か~ら~ちょーっと付き合ってくれるだけで良いだって!」


「そうそう!俺らと一緒に遊んでくれよ~な、な!」


「ですから……!」


 大きな木を背にして真っ黒なチャラ男に追い詰められてるアリシアさんの姿が……それを見た瞬間、心の中で舌打ちをした俺は思わずガクッと肩をおとしていて……


「ったくよぉ、どうして俺はこんな場面にばっか出くわすんだろうなぁ……やっぱり呪われてんのかぁ………?」


「ちょっと、そんな事を言っている時じゃないですよ!」


「お、お姉様が!ど、どうしたら良いんでしょうか!」


「いや、どうしたらって言われても………うーん………」


「おじさん!」


「九条さん!」


「あー…えー…………あっ、閃いた。シアン、悪いがコレを持っていてくれるか。」


「あ、はい!」


「それとマホ、ちょっとだけ砂が舞うかもしれないからかき氷に付着しない様に気を付けといてくれ。」


「わ、分かりました……って、何をするつもりなんですか?」


「まぁまぁ、ちょっと準備するから待ってろ。」


 持っていた焼きそばをシアンに預けてから羽織っているパーカーのフードを目深に被った俺は、もしもの時の為に用意しておいたグラサンを装着した!


「よしっ、それじゃあアリシアさんの所に行ってくるが2人はここで待ってろよ。」


「分かりました!おじさん、気を付けて下さいね!」


「あ、あの、お姉様の事をよろしくお願いします!」


「あぁ、分かってる………っと、その前に1つだけ忠告しておく。これからちょっとだけ俺はぶっ壊れるけど、それを見て引くんじゃないぞ。」


「「………はい?」」


 困惑した表情で小首を傾げたマホとシアンを置いて歩き始めた俺は、ごほんと軽く咳払いをするとすぅーっと息を吸って思いっきり肩を揺らしていく!


「なぁなぁ、こんだけ言っても分かってくれないのかなぁ?」


「ちょっと付き合うだけで良いって言ってんじゃーん!聞き分けが悪くねぇ?」


「ふんっ!喋っているだけで頭が悪くなりそうな方達とご一緒に何処かに行く予定は私にはありませんわ!ご理解頂けましたら、さっさと退いて下さい!」


「あぁ?ちょ、お前、何様な訳?」


「随分な事を言ってくれるじゃん。これはちょっとお仕置きが必要かなぁ?」


「くっ、そんな脅しには決して!」


「YO!YO!お前ら、ちょっとダサくなーい?」


「「……あ?」」


 よしっ!掴みはバッチリだな!チャラ男共、俺を思いっきり睨みつけてるかなら!まぁ、アリシアさんにも似た様な視線を向けられている気がするが無視するぜ!


「女の子1人相手に男2人とか、流石に情けなくなーい?根性、足りなくなーい?」


「チッ、いきなりなんだテメェ?」


「おい、あんま調子に乗ってるとぶっ飛ばすぞ?」


「ヘイヘイ!都合が悪くなったら暴力かよぉ!男としてぇ、マジちょード底辺な感じなんですけどぉ!」


「んだとぉ?!」


「おいゴラァ!舐めてんのか!!」


 いやぁ、これはブチ切れじゃないですか!マジでサングラスしておいて良かった!これなら後で正体がバレるなんて事は無いだろうし、何よりも知り合いにこんな姿を見せるとか死んでも御免だからな!……まぁ、あの2人に関しては今は気にしないでおこう!一瞬で心がへし折れちまうからな!って、それよりもチャーンス!!


「あ、貴方は一体何なんですの……って、きゃ!」


「細かい事は気にすんなYO!さぁ、アナタはとっととお逃げなさーい!」


「あ、おい!」


「何してんだテメェ!」


 怒りに我を忘れてる男達の隙を突いてアリシアさんの腕を強引に引っ張った俺は、彼女を匿う様にしてシッシッと手を払った。


「HA・HA・HA!残念でしたね君達!これに懲りたら、か弱い女の子を強引に誘う様な真似はするんじゃあーりませんYO!」


「はぁ?!」


「何言ってんのか分かんねぇし、調子に乗んなって言ってんだろうがよ!」


 左側に立ってた男がグッと腕を引いて肩を突き飛ばそうとしているのを見た瞬間、心の中でキタコレと叫んだ俺はグッと両足に力と魔力を込めると……セイッ!


「ぐわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


「「………え、えええええええええええええ?!!?!?!!!!」」


「きゃああああああ!!!!!」


 男の手が肩に触れるのと同時に後方へ一気に吹っ飛んだ俺は、砂を舞い上げながら地面を勢いよく転げ回った!……そして仰向けの状態で止まると、首を少しだけ曲げアリシアさんと男達の方に目を向けてみた。


「お、おい!アレは流石にやりすがろおうが!」


「し、知らねぇよ!俺じゃねぇって!わ、訳が分かんねぇよ!どうなってんだ?!」


「あ、貴方達なんて事を!」


「だ、だから俺じゃ!」


 ハッハッハ!随分と無様に慌てている様じゃないか!さぁ、どうする?騒ぎを耳にした沢山の人達がこっちに注目をしているぞ!


「ぐっ!と、とりあえず逃げるぞ!」


「ち、ちくしょう!何だってこんな事に!」


「あっ、待ちなさい!」


 よしよし、男達は雑木林の方に逃げて行ったな………ふぅ、特に大きな怪我とかも無く無事に助け出す事が出来て良かったぁ!……全身が砂まみれにはなっちまったがそれもまた必要な犠牲だったな!さて、後はアリシアさんにバレない様に俺もこの場から立ち去るだけ………


「お、おじさん!シッカリして下さいおじさん!」


「九条さん!大丈夫ですか!?お怪我とかありませんか?!」


「え、ちょ、何で来たんだ!?待ってろって言ったろ?!」


「あんなの見て待てる訳が無いじゃないですか!もう、また無茶して!」


「い、いや、見た目は派手だったと思うけど別に痛い所とか無いから!そ、それより早くここから!」


「……………九条……さん?」


「…………あっ。」


 ……気付かない内に近づいて来てたアリシアさんに困惑の表情で見降ろされていた俺は、砂浜の上に倒れた状態のまま頭の中が真っ白になってしまうのだった。

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