第96話
フラウさんと別れてから予想通り30分前後した頃にアトラクションを乗り終えた皆と合流する事になった俺は、待っている間に起こった事を簡単に説明していった。
「えぇ~!おじさんズルいですよ!私達もフラウさんとお話をしたかったです!」
「いや、そんな文句を俺に言われても困るっての……そんな事よりこの後の事だろ。とりあえず混雑するかもしれない状況を考えて場所取りの為に4時頃には遊びを切り上げるって感じで良いのか?」
「うん、1時間前なら座席も良い所を取れるかもしれないからね。イベント会場にはそれぐらいになったら向かうとしようか。」
「了解。そうなると残されてる時間はそう多く無さそうだし、さっさと次の乗り物がある所に移動するとしようぜ。」
「はい!おじさんには退屈させて申し訳ありませんが、もうしばらくの間だけ私達にお付き合いして下さいね!」
「へいへい、改めて念押しされなくてもお付き合いさせて頂きますよ。」
肩をすくめながらそう返事をした後、昼休憩を挟みつつアトラクションを楽しんでいく皆と一緒に俺はテーマパークを巡って行く事になるのだった。
腕輪のせいで特に出来る事は無いが学生時代に独りで時間を潰す方法を編み出していた俺は、簡単に言っちまえば妄想力を爆発させながらゆっくり傾いてく太陽を眺め続けていた。
「あっ、もうこんな時間なったんですね!そろそろイベントが開催される会場に移動するとしましょうか!」
「あぁ、そうだね。九条さん、ずっと待ってもらって悪かったね。」
「いや、別に気にしてないから謝る必要なんてねぇよ。ほら、早く行こうぜ。」
誰にも自慢が出来ない荒業のおかげでテーマパーク内に幾つかある街頭型の時計が午後4時目前に迫ってきた頃、俺達はまだ混み始める前のイベント会場の方へ歩いて行く事にするのだった。
「いらっしゃいませ。本日はお越し頂きましてありがとうございます。こちらの会場では1時間後にイベントが開催される予定になっておりますが、もしかしてご観覧をご希望のお客様でしょうか?」
「はい、そうなんですけど……今から入場しちゃっても大丈夫ですかね?」
「えぇ、問題はございませんよ。しかし、イベントが開催されるのはおよそ1時間後となる予定なのですがそちらに関してはよろしいでしょうか?それと今から入場して頂いた場合はイベント終了まで外に出る事は出来ませんが……」
「大丈夫です。あっ、トイレとかは中にあるんですよね?」
「はい。入って頂いた先にあるロビーにございます。」
「分かりました。それじゃあ入らせてもらいますね。」
「かしこまりました。会場内では係員の案内に従っての行動をお願い致します。」
受付のお姉さんにそう言われて小さく頷いた俺達は両開きのデカい扉を通って行き会場に足を踏み入れると、それなりに広々としている真っ赤な絨毯の敷かれたロビーまでやって来るのだった。
「いらっしゃいませ。イベントのご観覧のお客様でしょうか。」
「はい、そうです。」
「かしこまりました。それではこちらの扉をお通り下さい。会場内は自由席となっておりますが、なるべく前の方から詰めてお座り頂けると助かります。」
「はい!それじゃあ皆さん、行きましょうか!」
「あぁ、どうせだったら最前列で」
「あっ、申し訳ございませんお客様。少々よろしいでしょうか?」
「え?あーっと……何でしょうか?」
観客席に続いている扉の前に立っていた係員のお兄さんに呼び止められて何事かと思っていると、彼は俺の顔では無くて左手首の辺りに視線を向けていて……
「申し訳ございません。お客様は最後列の座席にご着席をお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「……最後列、って事は一番後ろの座席にですか?」
「はい。イベントの演出上、そちらの腕輪に不具合が起きてしまう可能性がありますので念の為に……ご参加される予定でなければ、問題はないのですが。」
「……分かりました。そう言う事でしたら俺は一番後ろの座席に行きます。」
「はい、本当に申し訳ございません。」
「いえいえ。」
深々と頭を下げて来てくれたお兄さんに見送られながら観客席がある場所にやって来た直後、ふと横を見てみるとマホがションボリとした表情を浮かべていた。
「……おじさん、私達も一番後ろの席に」
「ははっ、だから俺の事なら大丈夫だっての。お前達はキッチリ最前列に位置取ってフラウさんが見せてくれるものを楽しみながら俺の分も応援もしてやってくれ。」
「……分かりました!」
「ふふっ、それでは九条さん。また後でね。」
「おう、後でな。」
真っすぐ伸びた緩やかな階段を下って最前列にある座席に向かって歩いて行く皆の後姿を見ながらなるべく左右が気にならなそうな所に腰を下ろした俺は、それなりに見渡せるぐらいの広さがある会場内を改めて観察してみた。
「イメージとしてはオペラハウスって感じかな……行った事は無いけど。いやはや、こんな所でフラウさんはどんな事をするつもりなのかねぇ。」
そんな事を呟きながら再び妄想力を発揮して時間を潰していると、少しずつ観客が増え始めてきてイベント開始10分前には会場内は満席になっていた。
ガヤガヤしている人達の声に耳を傾けながらそこから更にしばらく待っていると、照明がゆっくりと消え始めて……さぁ、いよいよ始まるぞ……!
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