第76話

 文字通り試し斬りするだけの戦闘をサクッと終えて斡旋所でクエスト達成の報酬を受け取った後、俺は斡旋所の前で大きく伸びをしていた。


「んー!やっぱりレアな素材で加工された武器ってのは凄いんだな……」


「うん、最高だった……!」


「そうだよな!特に刀身!モンスターをどれだけ斬っても引っ掛かり的なものを一切感じられなかったからな!そのおかげで追加報酬まで貰えちまったし、マジで親方とあのお姉さんには感謝の気持ちしかないぜ!」


 嬉しいぐらいズシッとしている報酬の入った袋を掲げながら思わず笑顔を浮かべていると、マホが何かを期待した感じで俺の視界にスッと入って来た。


「おじさん!もし良かったらその報酬を使って今からお買い物に行きませんか?」


「買い物?何か欲しい物でもあるのか?」


「はい。そろそろ時期的に暖かい服を買いたいなーって思ったんですけど……」


「あぁ、そう言えば最近になって肌寒い日が増えて来たよなぁ……ロイド、ソフィ、マホがこう言ってるんだがお前達はどうしたい?」


「私は別に構わないよ。確かに寒い季節に備えて服を買っておきたいなと思っていた所だからね。」


「私も大丈夫。」


「そうか。よしっ、そうと決まれば服を買いに行くとするか。マホ、行きたい店とかあるんだったら案内してくれても良いぞ。」


「分かりました!それでは皆さん、私に付いて来て下さい!」


 ビシッと敬礼した後に軽い足取りで歩き始めたマホの後ろをしばらく追う様にして大通りから少し外れる様にして街道を進んで行くと、何と言うかアウトレットモール的な感じのする小奇麗な商店街みたいな所に辿り着いた。


「へぇートリアルにこんな場所があったんだな……」


「おや、九条さんはここに来た事はないのかい?」


「あぁ、大体は大通りの辺りで買い物を済ませてるからな。ロイドはここに来た事があるのか?」


「ふふっ、ファンの子達に連れられて何度かね。ソフィはどうなんだい?」


「この間、服を買いに来た。」


「服を……?それってアレか?俺が初めてロイドの実家に行ったあの日に服を買いに行ったとかっていう……」


「そう。マホとリリアとライルと一緒にあのお店で服を買った。」


「はぁ~なるほどねー……」


 そう言う経緯でここまで案内されたって訳か……まぁ、パッと見た感じそれなりにお洒落な雰囲気な所だから品揃えに関しては心配しなくても良さそうだな。


「えへへ、この辺りには服屋さん以外にも色々なお店がありますからのんびりと見て回ってみましょうか!」


「りょーかい。」


 テンションが上がっているらしいマホに言われるがまま服屋の他にもちょっとした雑貨屋やお手頃価格のアクセサリーが売っている店なんかを見て回っていた俺達は、気付いたら両手に抱えなくちゃいけないぐらいの紙袋を持つ事になっていた。


 そんな中、そろそろ昼飯時になるから何処か良い感じの飲食店が無いか探そうかという話をしていると視線の先に日除けみたいな物が設置されていてその下には法被の様な物を羽織った男性と女性が並び立っていた。


「ただ今より抽選会を行いたいと思いまーす!ご興味のある方は是非ともお立ち寄りくださーい!」


「……抽選会?」


「商店街にあるお店、5軒でお買い物をして頂きそこで出される購入証明書をお持ち頂ければ豪華景品が当たるかもしれない抽選に参加出来まーす!いかがですかー!」


「皆さん!聞きましたか!?豪華景品ですって!」


「ふふっ、購入証明書なら丁度5枚分あるね。」


「えぇ!さっきお買い物した分を合わせたらピッタリですね!おじさん!」


「はいはい、とりあえず行ってみるとするか。」


 コレも何かの縁って事で皆と一緒に小さな抽選会場に向かって行くと、俺達の姿を見た男性と女性が揃って笑顔を向けて来た。


「いらっしゃいませ!もしかして抽選にご興味がおありですか?」


「まぁ、そんな感じです……」


「ありがとうございます!それでは参加証明書を5枚、ご提示願えますか?」


「はい、分かりました。」


 店で貰った5枚の購入証明書……って言うかレシートを男性に手渡した後、俺達は奥の方に見えている豪華景品と書かれた看板の下にある字を目で追いかけて行った。


「へぇ、豪華景品は全部で3等まであるみたいだね。」


「あぁ、そうみたいだな。」


「3等かお買い物券1万G分、2等が最新式魔道撮影機……要はカメラの事ですね!それで1等が……ロゼーノ王国にある高級宿泊施設2泊3日無料券ですって!」


「……ロゼーノ王国?って、王都の事か。」


「はい!この大陸の中心地とも言える所ですね!そこの高級宿泊施設だなんて……!コレは是非とも1等を取りたいですね!」


「取りたいですねって言って簡単に取れたら苦労はしないんだが……」


「九条さん、こういうのは心持ちだよ。」


「そうです!戦う前から諦めてはダメですよ!」


「勝負の結果は最後まで分からない。」


「うふふ、皆さんその意気です!さて、確認が終わりましたのでコチラのガラガラを回して下さい。」


「あっ、はい。さてと、それじゃあ誰が回すとすっかね。」


「ん?それは勿論。」


「九条さん。」


「ですよね!」


「……えっ?なんで俺?」


 口裏を合わせていた様子も無かったのにマホとロイドとソフィが息の合った呼吸で俺を名指ししてきた事に驚いていると……


「なんでって、私達のリーダーなんだから当然としか言い様が無いだろう?」


「えへへ、それにおじさんはこういう時の運が強いですからね!」


「闘技場の抽選、当てた九条さんがやるべき。」


「……マジかよ……」


「大丈夫ですよ!外れても文句は言いませんから!」


「うん、マホの言う通り。絶対に当てろとは言わないよ。だからさ、ね?」


「……分かったよ。その代わりマジで外れても文句は言うなよ。」


「はい!それではお願いします!」


 期待の込められている視線を向けられながらガラガラの取っ手を軽く握った俺は、何度か深呼吸をしてゆっくりと右回転させていった……その結果……


「残念!外れです!こちら、ポケットティッシュをどうぞ!」


「ど、どうも……」


 見事1等を当てるだなんて都合の良い展開は起こる気配も見せず、白い球を出してしまった俺はポケットティッシュを片手に皆と抽選会場を離れて行った。


「いやー残念でしたねーおじさんならもしかしてって思ったんですけどー」


「……悪かったな、期待に応えられなくて。」


「いえいえ、大丈夫ですよ!文句は言わないって約束でしたから!」


「うん、それに九条さんがギャンブルに弱いのは以前から聞いてたからね。」


「王都なら普通に行ける。問題無い。」


「そこまで慰められると逆に申し訳なくなってくるんだが……よし、お前達の期待に応えられなかった詫びとして後で何か買ってやる。」


「おや、良いのかい?」


「あぁ、男に二言はねぇ。」


「やったー!それではお昼ご飯を食べたら本屋さんに行きませんか?」


「うん、行きたい。」


「ふふっ、決まりだね。九条さん、どうもありがとう。」


「いえいえ、どういたしましてっと……」


 その後、商店街の中にあった喫茶店みたいな所で昼飯を済ませた俺達は大通りの方まで戻って来るとその足で本屋に寄る事にするのだった。

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