第74話
エリオさんから手紙が送られてきた次の日、俺は自室でしばらくやっていなかったアイテム整理をしていた。
「えっと、傷薬は買い足しておかないといけなくて……あらら、逃げる時に使うかもって買っといた煙玉の有効期限が切れてんじゃねぇか……」
どうしよう……このまま捨てるってのも勿体ないし、折角だから後で庭先で投げてみるとしようかなぁ……煙が面倒だったら魔法で吹き飛ばせば良い話だし。
「つーか、こうして改めて確認してみると色々と買ってたんだなぁ……異世界に来たっていう記念に手当たり次第に買わなきゃ良かったって……ん?何だこれ?」
ポーチの底の方に丸まってた小さな紙切れを見つけた俺はソレを手に取って何の気無しに広げてみた。
「……引換券?それにこの日付って確か………あっ!やっべっ!!」
今まで忘れていた事が一気に頭の中を駆け巡った瞬間に慌てて服を着替えた俺は、急ぎ足で皆が集まっているリビングに顔を出しに行った!
「あれ?どうしたんですかご主人様、お出掛けでもするんですか?」
「あぁ、実は加工屋に預けていた武器の引き取り期限が今日までだったんだ!急いで受け取りにいかないとマズいから、ちょっと出て来るわ!」
「なるほど!そう言う事でしたら私も一緒に行っても良いですか?」
「えっ?いや、加工屋に武器を取りに行くだけだから別に付いて来なくても……」
「まぁそう言わずに!ロイドさん、すみませんが勝負はまた後でと言う事でよろしいでしょうか?」
「うん、構わないよ。と言うよりも私達も同行させてもらっても良いかな?」
「私達もって……ロイドとソフィもか?まぁ、断る理由も無いから良いっちゃ良いんだけどさ……」
「ありがとう。それでは私達も着替えて来るから先に外に行って待っていてくれ。」
「お、おう……」
全員揃ってリビングを出て行ってしまったので後に残されてしまった俺は予想していなかった事態に多少戸惑いながらも一足先に外にやって来ると、しばらくしてから合流した皆と一緒に大通りの方に向かって歩いて行くのだった。
「えへへ、こうやって気軽にお出かけするのって何だか久しぶりな気がします!」
「ふふっ、襲撃事件があってからは気の抜けない日々が続いていたからね。」
「あーそう言われてみればそうかもな。何時、何処で誰から襲撃されるか分からない感じでずっと過ごしてたからな。」
「うん。だけど、もうそんな心配をしなくても大丈夫。」
「……だな。」
思わず笑ってしまいそうになるぐらい穏やかな時間が流れている事を実感しながら静かにため息を零していると、少し前を歩いていたマホがクルッと振り返って来た。
「それにしても、おじさんが引換券みたいな物の存在を忘れてたなんて何だか珍しいですね。そういう物にはそれなりに気を掛けていそうなのに。」
「まぁな。普段の俺だったらこんな事は無いんだけど、ここしばらくは色々と大変な日が続いてただろ?闘技場で戦ったりソフィがギルドに加わる事になったり、それが落ち着いてきたと思ったら今度は変な奴らに襲撃されたりとさ……」
「……ごめんなさい。」
「あぁいや、ソフィが謝る必要はねぇよ。文句を言いたいのは襲撃者とあの商人だけだからな。でもまぁ、本当に気付けて良かったよ。折角のレア素材で加工して貰った武器だってのに受け取り忘れて商品として並べられたら泣くに泣けないしな。」
「普通に買ったら結構な値段がしそうな感じですもんね。」
「ふふっ、そうなったら私が買い戻してあげるから安心して。」
「……メチャクチャ助かる提案だけど、それで喜んでたらマジで大人として情けなさ過ぎるから慎んで遠慮させてもらうよ。」
「九条さん、レア素材ってどんなの。」
「うおっ!?お、お前はお前でいきなり目の前にとびだしてくるなっての……心臓に悪いでしょうが。」
「九条さん、レア素材って」
「はいはいレア素材の詳細ね、分かった分かった……ボスを倒した時に低確率で手に入るコアクリスタルって素材だよ。知ってるか?」
「……コアクリスタル……滅多に市場には出ない素材……それを加工して出来た物は凄いって噂……!」
「……お前がそんなに分かりやすく興奮している姿を見るのは初めてだよ……」
両目を大きく開いて瞳をキラキラさせてるソフィに見つめられて妙に気恥ずかしくなってしまい、サッと視線を逸らしたら……
「九条さん、お願いしても良い?」
「お、お願い?な、何だよ急に。」
「その武器、一度だけで良いから使わせて欲しい。お願いします。」
「うぐっ……!そんな風にジッと見つめて来るなってば!良いよ別に、減るもんじゃないから武器ぐらい使わせてやるよ。」
「約束。それじゃあ急ごう。」
「あっ、おい!ったく……仕方ない奴だな……」
「ふふっ、流石は闘技場の元王者だね。強い物に惹かれやすいみたいだ。」
「おじさん、ロイドさん、ソフィさんに置いて行かれちゃいますから行きますよ!」
「はぁ……俺としては武器とかそういう物騒な物よりも、可愛らしい小物とかに瞳をキラキラさせてくれる系の女の子の方が良いと思うだけどなぁ……」
そんな小言を零しながら足早に先を歩いているソフィの背中を追い掛ける事にした俺達は、そのまま加工屋へと向かって行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます