第64話

「お待ちしておりました皆様。招待状のご提示をお願いしてもよろしいですか?」


「はい、分かりました。」


 門番の人達にそう言われて自分の分と皆の分を纏めて馬車の窓から手渡して俺は、少しだけ緊張しながら事の成り行きを見守って……


「確認させて頂きました。ようこそ、本日は心行くまでお楽しみ下さいませ。」


「あぁ、そうさせてもらうよ。警備、頼んだよ。」


「ハッ!かしこまりました!」


 ロイドの言葉に敬礼で返してくれた門番の人達に見送られながら開かれた門の下を通って敷地内に入った俺達は、煌びやかな服で着飾っている大勢の貴族達を見ながら社交界の会場となってる建物から少し離れた場所で馬車から降りた。


「いやはや、どんな感じなのかイメージとしてあったけど実際に目の当たりにすると中々に凄いもんだなぁ。」


「えぇ、そうですね……ロイドさん、あの方達は皆さんエリオさんのお知り合いなんですか?」


「うん、恐らくはね。この社交界を切っ掛けにして縁を深めようとしているであろう相手も何人かは居るだろうから、その限りではないと思うけど。」


「はぁ~……なんつーか、色々と大変そうだな……お前もそういった交流に参加する必要があったりするのか?」


「多分、父さんの付き添いで顔合わせ程度はするんじゃないかな。その間、一緒には居られないけれど皆は私の事は気にせずパーティーを楽しんでいてね。」


「あぁ、悪いけどそうさせてもらうわ。ただの冒険者である俺達が、貴族様と関係を持てるとも思えんしな。」


「私達はロイドさん達の顔に泥を塗らない様に振舞うだけですね!」


「そう言うこった。さてと、それじゃあ会場に乗り込むとするか。」


「うん、お腹すいた。」


 俺達が会場の明かりが届かない所でそんな話をしていると、護衛をしてくれていたカームさんがこっちに歩み寄って来た。


「皆様、私はこの辺りで巡回任務に戻らせて頂きますね。どうぞ、今夜はお楽しみになって下さい。」


「あっ、はい。ここまでありがとうございました、カームさん。」


「いえ、それでは失礼させて頂きます。何か有ればご連絡を。」


「えぇ、それではまた。」


 丁寧にお辞儀をしてきてくれたカームさんと別れた後、俺達は揃って会場の方へと向かって歩き始めたんだが……


「むぅ~……おじさん、ちょっとで良いんで私と手を繋いでくれませんか?」


「ん?どうしたんだよ急に?」


「いえ、それがその……ヒールに慣れなくて……」


「……あーあー……了解、ほらよ。」


「えへへ、ありがとうございます。」


「おやおや、可愛い美少女と手を繋げるだなんて羨ましいな九条さんは。」


「やっかましいわ。冗談を言ってないでさっさと行くぞ。」


 足元がフラフラだったマホと手を繋ぎながら改めて会場の中に足を踏み入れると、そこは何と言うか……文字通り別世界とも言える空間が広がっていた。


「うわぁ……!凄いですねぇ……!あっちもこっちもキラキラしていますよ!それに美味しそうな食べ物もいっぱいあります!」


「あぁ、場違いな所に来ちまったって感じが倍増してくるなぁ……」


 苦笑いを浮かべながら堂々たる振る舞いで談笑をしている貴族の紳士淑女の方々の姿を自然と目で追ってしまっていると、視線の先にエリオさんとカレンさんが数人の貴族様と話をしている姿を発見した。


「ふむ、どうやら父さんと母さんは接待の真っ最中みたいだね。皆、すまないけれど少しの間だけ外させてもらうよ。」


「おう。こっちはこっちで飯でも食ってのんびりしてるから気にせず行って来い。」


「ふふっ、了解した。それではまた後でね。」


 爽やかに微笑みながら両親と合流していったロイドを見送った後、俺達は見た目も綺麗な料理が並べられたテーブルの方に向かって行った。


「ん~!どれも美味しそうですね!コレってどれでも食べていいんでしょうか?」


「まぁ、ここに有るって事はそう言う事なんじゃないのか?……って、ソフィはもう食べ始めてるし……」


「……美味しい。」


「そりゃ良かったな……じゃあ、俺達も適当につまんでいくとするか。」


「はい!そうしましょう!」


 1口サイズで作られてる様々な料理と使用人の方が運んで来てくれた飲み物を口にしながら、しばらく食事を楽しんでいると……


「あっ、貴方はもしかして……!」


「ん?」


「……誰?」


 興奮した様子の若い女性に声を掛けられたソフィが首を貸してげていると、今度はメチャクチャ申し訳なさそうにペコリと頭を下げられた。


「も、申し訳ございません!急にお声掛けをしてしまって……!私、闘技場で貴方の試合をよく見ていたものですから……!えっと、闘技場で王者をなさっていたソフィ様ですよね?すみませんが、少しだけお話させて頂いてもよろしいでしょうか!」


「……どうしたら良い?」


「いや、俺に聞くなっての……とりあえずファンの子だって言うんだったら話ぐらいしてあげても良いんじゃないか?こんな機会、滅多にないだろうしさ。」


「……分かった。少しだけで良いならお話しよう。」


「あ、ありがとうございます!実はその、私の他にも貴方のファンが居るですが……こちらに来て頂いてもよろしいですか?」


「うん、分かった。」


「ソフィ、俺達はあっちの壁際ら辺に居るからな。」


「了解。」


 女性と共にソフィが居なくなってしまった後、残された俺とマホがグラスを片手に持ちながら人のあんまり居ない場所に移動して盛り上がっている会場内を見渡しつつ2人の帰りを待つ事にするのだった。


「……おじさん、闘技場でソフィさんと戦って勝利した人なんですけどあの女性から見向きもされませんでしたね。」


「……そう言う事は言わんでよろしい。」


「あいてっ。」


 繋いでいた手を放して頭に軽くチョップを入れてやった俺は、自分が望んだ通りの結果になっている事に安堵しながらも少しだけ寂しい気持ちになるのだった……

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