第26話
王者決定戦と銘打って始まった最終試合、戦いの始まりを告げるブザーの音が鳴り響いたのと同時に挑戦者全員が一斉に攻撃を仕掛けたが、王者はその全てを軽々しく避けていくと文字通り瞬く間に相手を斬り倒してポイントを奪い取っていた。
そのあまりの早業に観客達はしばらく声を出すのも忘れていたが、しばらく経った後に割れんばかりの拍手と声援を上げ始めた。
「いやはや、事前に強いとは聞いてたけどまさかここまでとはねぇ……ロイド、あの王者の試合って何時もこんな感じなのか?」
「まぁ、そうだね。これまでにも何度か彼女の試合を拝見した事があるんだが、どの試合も5分と経たずに決着が付いていたはずだよ。」
「そ、そんなに早く!?本当に凄い方なんですね……」
「うん、どんな武器であろうと難なく扱って魔法の腕も一級品だからね。」
「うへぇ……そりゃ並大抵の相手じゃまともに戦うのすら難しそうだな……」
「ふふっ、対戦相手はトーナメントで勝ち上がって来た実力者ではあるんだけどね。とは言え、それだけで勝てると思える様な甘い相手じゃない事は確かだよ。」
「……だろうな。」
言い過ぎだろうとは口に出せない試合展開を目の当たりにして誇らしげなロイドの言葉に小さく頷いてみせた直後、試合終了を告げるブザー音がスピーカーから盛大に鳴り響いてきた。
それからしばらくして王者の勝利を称える言葉を聞いた俺達は、他の観客達と共に闘技場を後にするのだった。
「えへへ!最初は闘技場って怖い所かと思ってたんですけど、実際に来てみてそんな所じゃないって事が分かりましたね!」
「あぁ、それなりの安全性が保障されるから見てる方も気軽に楽しめるしな。まぁ、賭け事をしてるから全くの健全とは言えないけどな。それも含めて闘技場って事なんだろうよ。」
「うん、でもだからこそ多くの人々が熱中する場所なのさ。満足して貰えたかな?」
「はい、とっても!けど、あの王者の方は本当に凄かったですよね!あんなにも若い方なのにビックリするぐらい強くって!もしかしたらおじさんより強いかもです!」
「いや、もしかしてって言うか考える余地も無いぐらいあっちの方が強いだろ。一体どんな鍛え方をしてきたらあんな風になるのかねぇ。」
「おや、もしかして彼女の強さの秘訣が気になるのかい。」
「ん?まぁそれなりにって感じだけどな。もかして何か知ってるのか?」
「うん、実は彼女とは何度か言葉を交わした事があってね。その時に私も気になって強さの秘訣を聞いてみたんだ。そうしたら父親に鍛えてもらったと教えてくれたよ。実は彼女の父親も闘技場の王者となる程の実力者でね。」
「へぇ、つまりはとんでもなく優秀な師匠がすぐ近くに居たからアレだけ強くなれたって訳か。」
「ふふっ、そうだとも言えるね。ただそれだけではなく、彼女自身が強くなりたいと思っているからこそだと私は思うね。あっ、もし良かったら詳しい話を直接彼女から聞いてみるかい?」
「えっ!出来るんですかそんな事?」
「あぁ、今ならまだ控え室に居るだろうからね。少しぐらいなら話せると思うけど、どうする?会いに行ってみるかい?」
「いや、やめとく。」
「えぇっ!?な、何でですかおじさん!」
「何でってそんなの決まってんだろ?いきなり会いに行っても迷惑にしかならねぇしそもそも俺はああいう子は苦手なんだよ。お前も見たろ。あの子、試合に勝ったのに喜ぶ素振りすらしてなかった。そんなクーデレな子と喋れる自信はねぇ!」
「おじさん……情けない事をハッキリと言わないで下さいよ……」
「やかましいわ!……ってな訳だから会いに行くのは無しだ。」
「ふむ、それは残念だ。」
「全くもう、おじさんはもう少し積極性って言うものを身に付けないとダメだと思いますよ。彼女が出来なくても良いですか?」
「あのな、若い時ならいざ知らずこの歳になってから性格なんかそうそう変わんねぇんだよ。」
「やれやれ、だからおじさんはおじさんなんですよ。」
「おい、それはどういう意味だ?あんまりな事ばっかり言ってくるとマジで泣くぞ?良いのか?みっともなく泣きわめくぞコラぁ!」
「まぁまぁ、九条さん落ち着いて。それよりもまずはこの後の予定を決めてしまおうじゃないか。時間的な事を考えると更なる案内は明日にした方が良さそうだけど。」
「だな……よしっ、それじゃあ今日はギルド結成を祝ってパーティーでもするか?」
「あっ、良いですね!今から食材を買い込んで準備をすれば色々出来そうですし!」
「ふむ、それは面白そうだね。よしっ、そういう事ならば実家に戻ってシェフに声を掛けてこよう。」
「あっ、いやロイド!その提案は大変嬉しいがちょっと待ってくれ。今日は俺が飯を作るからシェフを呼ぶのはまた今度って事で……な?」
言動がそこまでぶっ飛んでる訳じゃないからあんまり違和感を感じてなかったが、ロイドってガチもんのお嬢様だったな……危ない危ない、油断しているとそういった顔が出て来るから注意しておかねぇと……
「おや、九条さんは料理を作る事が出来るのかい?」
「はい!実はおじさんって結構料理が上手なんですよ!」
「まぁ、最近になって始めたばかりの腕前だから簡単な物しか作れないんだけどな。お嬢様の口に合うかどうかは分からないがそれでも構わないか?」
「勿論じゃないか。楽しみにしているよ。それにしても最近料理を始めたとは、これまでは外食ばかりだったのかい?そう言えば、九条さんとマホはトリアルに来る前は何処で暮らしていたんだい?」
「え!?あ、いや、まぁ……それは、その……各地を転々としながらだなぁ……そ、そんな事よりも早く市場に向かうとしようぜ!今日は仕込みから本気を出して料理をするつもりだからな!時間を無駄にするわけにはいかねぇ!」
「ふふっ、了解。そういう事ならば急がないとね。」
「で、ですね!」
(ちょ、ちょっとご主人様!発言にはくれぐれも気を付けて下さいよ!別の世界から来たなんて言ったら変な人だと思われちゃいますから!)
(わ、分かってるっての!マホも何かヤバいと思ったらフォロー頼むぞ!)
(は、はい!)
「九条さん、もし良かったらウチが食材を仕入れている店に行ってみないかい?そこならば最高級の食材が手に入るはずだよ。」
「えっ!いや、お前の所が使ってる店ってどう考えても財布に優しくない様な……」
「うーん、おじさん。コレはロイドさんの金銭感覚を何とかしないと将来的にマズいかもしれませんよ……」
「あぁ、俺もそんな気がしてきたわ……おいロイド!これから一人暮らしをしていくつもりならお嬢様感覚を忘れて庶民としての生活を覚えなくちゃならない!という訳だから、今日は俺の買い物姿をシッカリと観察するように!分かったか!」
「ふむ、言われてみればそうだね。了解、頼りにしているよ師匠。」
「よーし、それじゃあ市場に向かうぞ!」
「「おー!」」
俺の掛け声にマホとロイドが揃って握り拳を小さく上げてくれた後、俺達は市場に食材を買いに来たんだが……まさかロイドの金銭感覚がここまで庶民とかけ離れてたとは思いもしなかった……
「おぉ、これは良い食材だね。あっ、コレも栄養が豊富そうだ。それにコレも……」
「ちょ、ちょっと待てロイド!値段も見ずに何でもホイホイ買おうとするんじゃってコラ!人の話を聞けっての!!」
目利きだけは確かみたいで状態の良い食材を見つけてはくれるんだが、懐事情とか一切考慮せずに色々と手を伸ばすからマジで買い物が大変だった……!
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