第145話 「エピローグ」
ウッドが世界樹と一体化して、元に戻らない。
その話はギルド内、それに街中ですぐに広まった。
ウッドを知るものは初めは冗談か何かだろうと考えたが、世界樹の根元に一人ポツンと座り込むタマさんの姿を見てその話が本当であると理解する事となる。
「タマさん、食事持ってきました……」
「……ありがとニャ」
世界樹の根元から動こうとしないタマさんを心配し、様子を見に来る者、食事を届ける者などタマさんの元を訪ねる者は大勢居た。
ケモナーもその一人である。
(……さっさと戻って来なさいよ)
最初はタマさんと話せると内心喜んでいたケモナーであったが、今ではそんな気持ちはほとんどなくなっている。
タマさんが動かなくなってから1年近い月日が過ぎようとしている……その間にタマさんの体は元の半分ほどに窶れてしまっていた。
毛並みもボロボロで艶が無い、日ごとに窶れていくタマさんを見て、ウッドに対し早く戻ってこいと言う思いが強くなっていく。
「……それじゃ、また来ますね」
「ニャ」
タマさんが世界樹の根元から動かないのにはいくつか理由がある。
一つはウッドの装備がそのまま残っていることだ。
これは装備を無理にとった場合、木を傷つけてしまうことになり、それはつまりウッドを傷つけることになる。
……ダンジョンシーカーはもとより、街の住民もウッドが世界樹を動かしたであろうことは、大体理解していた。
当然恩人であるウッドに対し、悪さをするような奴はまず居ないのだが……例外もある。
街の外からきた者であったり、盗賊であったりと高価な装備が放置されているのはそう言った者にとっては魅力的に映るものだ。
それ故にタマさんは世界樹の根元から動こうとはしない。
そしてもう一つの大きな理由、それは世界樹の枝に残った巨大な世界樹の実である。
幸いなことに指導者との闘いで命を落とした者は……他には居ない。
つまり世界樹に残ったあの実はウッドのものである。
ウッドの装備を見つけて暫く放心状態であったタマさんであったが、ある日気が付いたのだ。
実が徐々に徐々にであるが大きくなっていくことに。
そしてこう思った。
手がもげても再び生えてくるウッドであれば、世界樹に取り込まれたとしてもいずれ復活するのではないか?
そしてあの大きくなっていく実の中は……と。
僅かでも希望があるのなら……そう考えたタマさんは世界樹の根元から動かなくなった。
人よりずっと寿命の長いタマさんにとって1年やそこらはほんの一瞬の出来事にすぎない。
……ただ、それでもやはり僅かな希望に縋って待ち続けるのは辛いものがある。
ふと、ため息を吐いて……何となく上を見上げた時であった。
巨大な世界樹の実が風に振られ……落下してきていたのだ。
落下先には岩がある、落ちた実は確実に潰れるだろう。
タマさんが全身のバネを使い、落下地点に向かい手を伸ばす…………だが、気が付くのが遅すぎた。
実は岩にあたり、弾け飛んだ。
「…………?」
ふと感じた浮遊感? 落下感?に俺は目を覚ました。
この内臓が浮かびあがる感じ、これ間違いなく落ちてるよね? てか真っ暗で何も見えないし! 何か体にまとわり付いてて上手く動けないし、どういうことなのっ!??
なんて混乱していたその直後、俺の尻を凄まじい衝撃が襲う。
「っおんぎゃあぁぁー!??」
叫ぶと同時に前方に撃ちだされる俺。
「おぐぅっ……い、いったい何が?」
地面をズザザザッと滑ってなんとか止まったけど尻が痛い、とにかく痛い。
一体何がと後ろを振り返ってみればそこには潰れた実とでっかい岩。
落下して岩にぶつかったらしいんだけど、どうもいい感じで角度のついた岩だったらしく、ぶち当たって俺の尻に衝撃を与えると同時に、落下ベクトルを90度変えて前方に撃ちだしてくれたらしい。
ありがとうよ、すっぽんぽんで撃ちだされたわっ!
それを理解した瞬間、俺は色々と思い出した。
俺、世界樹と一体化して意識失ってそれから……そうだ、神様をむしって土下座して再転生させて貰えたんだった。
ちくしょう神様め!
転生させるならもっといい場所あるでしょっ!? なんで実に詰め込んで、しかも岩に激突コースで転生させますかねえ? 最初の木にめり込んでいたのと言い……まったく、次あったらまたむしってやるわっ。
「っぐぽうっ!!?」
とかなんとか考えていたら、鳩尾に毛玉が凄まじい勢いで飛び込んできた。
数百m毛玉と共に吹っ飛ばされた。
「し、死ぬ……ってタ、タマさん!? 一体どうしたの――」
――毛玉の正体はタマさんだった。
タマさんは俺のお腹に顔をうずめてグリグリと頭を押し付けている。
ケモナーさん見たら目と鼻から血を噴出させそうな光景ですね。
って、あれタマさん何か震えて…………タマさんなんでこんなに痩せて??。それに街の様子も……壁とか撤去されてるし、これ俺が世界樹と一体化してから結構な時間が経ってるぞ……。
……俺があの実から出てくるまでずっとタマさん待ってくれていたのか。
俺、神様の気分次第ではもっと別の場所で転生していた可能性だってあるんだよな、でもタマさんのそばで転生させてくれたのか……? むしったのに。
……神様、さっきの言葉は取り消します。
「ただいま、タマさん」
「ニャ!」
俺の転生場所は、ここで、あってます。
敬具。
終わり。
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