第125話 「124話」

テーブルの上に置かれた大量の稲を前に俺は一人涙を流していた。


「うっぐ……ひぐっ」


しばらく口にしていなかったお米を再び食べられる……そのことに自然と涙が溢れてきたのだ。



嘘です。


「ちょぉ痛い……もう無理ぃ」


稲を腕から切り離すのくっっそ痛い。



いや、1本1本はたいしたことはないんだけどね?

なにせ数が数だからさ……想像してみよう、鼻毛をひたすらそれこそ何百本と抜かれる痛みを。


もうね、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃですわ。


「これどうやって食べるのかニャー?」


「ぐすっ……そ、それはね」


お、タマさん実は興味あり?


猫とお米といえばねこまんま。

カツオ節はないけど、味噌汁ならいけるしぜひタマさんに食べて貰いたいね。


タマさんに食べて貰えるならこれぐらいの痛みへっちゃらだぜ。


「鼻水なんとかするニャ」


あ、はい。


鼻かまなきゃ……チリカミはどこかなーっと。


「鍋で炊く……で分かるかな? 水分調整して煮る感じ」


「そのままかニャ?」


かんだチリカミをぐるっと丸めてゴミ箱にぽいした俺はタマさんにお米の食べ方について説明する。


適当な説明だけど、一応通じたぽい。

麦とか似たような食い方するんかね?


んでそのままかーってことだけど。

当然そんなことは無い。


稲をそのまま炊いたって食えるわけない、ちゃんと脱穀して精米しないとダメ…………ん?


「いやいや、ちゃんと脱穀して精米してー……どうやるんだろ」


やべえ、やり方知らないぞ!?

なんでだっ、お米の炊き方は分かるのに……くそう、神様めやってくれる!



ぬぅ……麦を扱ってる業者に頼めば何とかなる、か?

そもそも麦があるかどうか分からんけど。普段食べてるパンとか、パンっぽいからパンって言ってるけど、味は小麦粉のパンと微妙に違うしね。



っと、話が脱線した……たぶん似たような食物はあるだろうし、なんとかなるといいなー……。


なんて俺が考えていると、タマさんが稲をぺしぺし叩き始めた。

タマさーん!?



「出て来たニャ」


「おお! さっすがタマ……さん?」


ちょっと焦ったけど、よく見るとタマさんが叩くそばからポロポロと稲からお米がこぼれてくる。すごい。


ちゃんと白いお米だし、精米されて…………どう言うことなの。




「10合ぐらいかな? おっし、さっそくご飯炊いちゃおう」


深く考えるのはやめました。

魔法か何かでしょ、たぶん。


それより米ですよ米ぇ!

なぜか知らんけど、お米の炊き方は分かる。

おかずはタマさんとかハナにまかせて俺はお米を炊くのに専念しよう。



「ハナ、器用だねえ」


ハナがどうやって料理しているか判明した。

普通に包丁とか持って料理してますね……どう考えても握れないはずなのに、ぴとって包丁がくっついてるの。


……魔法かな?

なんなの、タマさんと言いハナと言い、なんでそんな器用に魔法使えるのっ。


俺? いまだに使えませんよ?

はははっ。



まあ、いい。

気にしたら負けである。


ご飯炊けたし、おかずも出来たし喰うべさ。


「よっし、食べよー食べよー。 ほいっ」


「ニャッ!」


ぱかっと鍋の蓋を取るともはぁって湯気があがる。

うむ、炊きたてご飯の香り、素晴らしい。


タマさん、一緒になって覗き込んでたもんで湯気が顔についたらしい。

わちゃわちゃって感じで顔をゴシゴシしてる。可愛い。



しかし、我ながら良い炊き加減だ。

お米も艶々してるし立ってるし、混ぜれば底にはお焦げが出来てる。


ふふふ、超山盛りにしちゃおう。



「まずはそのまま……うめぇ! この米むっちゃ美味しいぞ」


うまっ!

これ絶対以前食べてたのより美味しいぞ……久しぶりだからってのもあるだろうけど、この体やばすぎる。


戦闘に関してもだけど、こう言った食いもん関係が特にすごい。

これで見た目もばっちりなら言うこと無かったけど、さすがにそれは贅沢か。


「豚汁……漬物、焼き魚。すばらしい」


おかずはご飯に合いそうなもの、その中でも和食っぽいのを作るようにハナにお願いしておいたのよね。


豚汁がバター風味だったり、二日連続だったりするけど、問題なしだ。



あ、バターと言えば……んむ、まだご飯は熱々と。

んじゃ、ご飯をお代わりしてっと。



「バターどうするのかニャ」


「こうするの……ぐふふ、炊きたてご飯にバターと醤油! うめえ!」


炊きたてご飯にバターと醤油!!

うましうまし。


これ、苦手な人も居るそうだけど、俺は大好きだったりする。


「割といけるニャ」


タマさんが興味ありそうに見てたのでお裾分けしてみる。

意外といけたらしく、ご飯をお代わりするといそいそとバターをご飯に埋め込み始めた。


「卵もあるよ?」


卵かけご飯も美味しいよね。

これもあとでタマさんにお裾分けしてみよう。



ハナはー……黙々とご飯ばかり食べているね。

たまにおかずにも手を出しているけど、お米そのものを食べる方が良いのかな?

山盛りでお代わりしているし、味は結構気に入ってるぽい。




「うー……食い過ぎた」


10合全部食べましたとさ。


いやー美味しかった。

久しぶりのお米は良い物です。


それにタマさんもハナも気に入ってくれたみたいしだし、良かった良かった。


「……次はドンブリ系かなあ」


お米が食えるとなると、色々と欲が出てくる。

ドンブリ系とか大好き。


問題は卵かけご飯とかと違って作り方がさっぱりってとこだけど……これはハナに頑張って貰おう。


タマさんが俺の言葉に反応して目をキラッとさせてたから、タマさんも手伝ってくれるかも知れない。


いやあ、楽しみですなあ。






んで、ご飯を堪能したその翌々日。


俺とタマさんは約束通り早朝のギルドへと向かっていた。

ギルドに入ると既に結構な人数が居て、各々てきとーに寛いでる。

この人達たぶん深層行くメンバーだろうね、強そうだし装備凄いし。


お、ゴリさん達もいるね。


ゴリさんは俺とタマさんに気が付くと手を上げながら近寄ってくる。


「お、きたか……なんで泣いとるんだ、こいつは」


「気にしなくていいニャー」


稲を引っこ抜いたせいです。


お弁当におにぎり欲しかったんだもん……。



お米美味しいんだけど、毎度毎度あの痛みに耐えるのはちときついものがある。

もちろんタマさんにためになら耐えられるけど、痛くないにこしたことはない……ってことで、出発前に作ったお米だけど、全部は精米せずにハナに半分ぐらいを籾のまま渡しておいた。


庭を数日であんな風にしたハナであれば育てられるんじゃないかなーっと思ったのである。


籾を渡した瞬間もしゃもしゃ食われて焦ったけど、きっとやってくれるはずだ。たぶん。



「お、おう……これで全員か?」


そういって振り返るゴリさん。


俺も釣られてそっちに視線を向ける。

ふむふむ、大体15人ぐらい? 3~4パーティー参加してるんかな。



……おや?

俺たちに気が付いたのか、何人かがこっちをみて近寄ってくる。

え、なになに。



「タマさん本当に参加してくれるとはな」


「数が本当にやばかったから助かるね」


おう、さすがタマさん有名ですね。

なんかこう一目置かれている感じがする。しゅごい。


「タッ、タタタタタマさんっ」


……なんか一人だけ様子の違う子が居るんですけど。

タマさんのファンか何かだろうか、頬が上気してて息が荒いし。目が血走ってる。


え、やだなんか怖い。

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