第97話 「96話」

兜に指導者の頭をかぶせる……最初は何も変化は起きない。

でも急にグネグネと蠢き始めたかと思うと指導者の頭はその形状を崩し、兜の表面を覆い、粘着質な音を立てて木と肉が混ざり合っていく。


「う……うご、え??」


それは一瞬の出来事であった。

蠢いて混ざりあったかと思うと、ぴたりと動きを止めそれ以上動くことはない。



その光景を見た俺は思わず固まってしまう……兜を取り落とさなかっただけ褒めてほしい。


……いや、よくよく考えると持っている手が巻き込まれる可能性もあったし、落としたほうが正解だったかも知れないけど。



「くっついた……?」


恐る恐る突いてみるが、ぴくりとも反応は示さない。

いや、これ怖すぎるでしょ……。



「被ってみたらどうだ?」


「あ、はい」


ゴリさんてば冷静ですね……。

まあ、見た感じ兜とちゃんとくっ付いた……というかもうこれ融合だよね。融合しちゃってるよこれ。


……直接頭に被ってたらどうなっていたのか、ちょっと想像したくはない。


……か、被るよ?? 被るけど、これ本当大丈夫かな……。




「ん……あ、動きますね。 蔦とかと同じ感じでいけます」


とりあえずそろー……って感じで被ってみた。

ばかめ引っかかったな! 見たいにグネグネ動きだしたりとかは無い。


試しに触手を動かしてみると自由に動くし、伸びるしで蔦とか根っこと同じ感覚で動かすことが出来たよ。

兜にひっつける作戦は上手くいったようで良かった良かった。


ちょっと見た目はあれだけど、回りからひそひそ声が聞こえるけど、騒ぎになってないからでーじょぶだ。


てかあれだね、失敗してたら俺の頭やばかったね。アハッハー。


「やっぱそうか……外せるよな?」


ハッハハハー……そうだ外せるかどうかが残ってた。


やべーよやべーよ……これ外せなかったら一生見た目このままとかやばすぎる。 お外出歩けない!

もうずっとタマさんもふって過ごすしかなくなるわー、辛いわー。




「あー……大丈夫ですね」


あっさり外れおった。

俺の皮膚に触れる部分は全部木っぽいので大丈夫らしい。


「そうか、なら良いんだ。 目はいけるか?」


「目……目……むむむ」


ゴリさんに言われて兜を被り直して目を出してみようとしてみる……でもこれが中々出てこない。

実とかさ、そのへんは何となくで出来ちゃうんだけど目はねえ……普通は目って2個しかないじゃない? それを増やそうとするとなんか違和感というかこう……うまくいかんのです。


でも魔法が使えない俺にとっては目を生やすことこそ本命な訳で、まあ頑張ります。


「なんかへたってきたぞ……」


「あはーぐんにゃりしてるー」


「結構難しくて……むむむ……む?」


頑張りすぎて触手の操作が……ぐにゃってへたって床に触手が伸びておる。

突いて遊ぶのやめてくだし。


って、あれ? 誰か近づいてきた?


「……何をしているんですか?」


「おう、リタちゃん。 ほら、例のドロップ品だよ」


「ああ、なるほど……」


リタさんだった!

今日は仕事休みなのかなー? 私服でしかもスカートだ。やったぜ!



…………スカート?

床に伸びた俺の触手……スカート……目を生やす。




うぉおぉおおお! 開眼せよ、俺の第三の目!!

今頑張らないでいつ頑張るんだっ! 開けっ開いてくれえっっ!!?



「それで、ウッドさんは何を……?」


「ああ、目を生やせないか試してんだ」


ゴリさん言っちゃだめぇえええっ!?


「なるほど目ですか……っ」


あぁぁっぁぁぁ!!?




開眼した俺の第三の目。

その目が最初に見た光景、それは靴の裏であった。







覗きダメ。絶対ダメ。

翌朝、宿で目を覚ました俺だけど……なんかまだ触手が痛い気がする。

目玉をつぶされる感覚とかもう二度と味わいたくは無い……覗きダメ、絶対。



触手が痛い気がするのを除けば体調はばっちりだ。

二日酔いもないし、朝食をとったらすぐタマさんの故郷へと向かおうと思う。


荷物も昨日のうちに用意しておいたし、まあ足りなくても途中で街に寄れば良いので何とかなるっちゃなる。

このあたりは身体能力がアホみたく上がったからこそ出来る事だね。 森の中をひたすら彷徨うとかでもない限り何とかなってしまう。


んま、とりあえず出発しますかねー……って、タマさんこっちはギルドの方向では?


「行く前にリタに声掛けてくニャ」


「おー……すっごい気まずい。 3日ぐらいは不在になるってことだから言っておかないとだけどね……昨日いっときゃ良かった」


本当、昨日言っておけばよかった。

あんな事があった手前どんな面して会えばいいのだろうか。

笑えば良い? ぶん殴られますがな。



「タマさんの故郷にですか……」


「ちょっと行ってきます。 たぶん3日ぐらいだと思うんですけどねー」


うん。 なんかリタさん普通だ。

酔っぱらいの多いギルドだし、あれぐらい良くあることなのだろうか……?


また目を踏み潰されるのは絶対嫌なので、俺はもう二度とせんけどね!


「分かりました。 途中いくつか街を通るかと思います、その際はギルド証を提示してくださいね。 問題なく通れるはずです」


あ、そっかそっか。

俺のランクもだいぶ上がったし、もうこの街でしか身分証として使えない、なんてことは無いのだった。


「はい、それじゃ行ってきますね。 お土産期待しといてくださいー」


タマさんの故郷にどんなお土産売ってるか知らないけどな!

醤油とかお味噌は……ちょっとお裾分けぐらい? それ以外なにかあるかな、毛玉とか? 毛玉でいいかな。


「ゴリさんにも挨拶しておこっと」


ゴリさんにも言いそびれてたし、言っておかないとねー。

昨日しこたま飲んでたし、さすがにまだ宿かなー?


って何気なくギルド内を見渡して見たんだけど、居ましたよゴリさん。 てか皆居るじゃん。


昨日あんだけ飲んだのにまた朝から飲むなんて本当元気だなあ…………あ、あれ? おかしいな。


今朝から飲んでるにしてはテーブルの上の惨状が酷いような……これっ、またじゃなくてまだだ!

この人達まさかのオールだとっ!? てか20時間近く飲みっぱなし!?やばすぎんよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る