第93話 「92話」


「全ての触手に口……同時に複数の魔法行使!」


ゴリアテの顔に厳しい表情が浮かぶ。

詠唱する関係から通常一度に使える魔法は一つのみである、その前提が覆されると一気に戦闘が面倒くさくなるのだ。


例え自分が攻撃した相手が即回復されたとしても、その間に誰かが別の竜を倒せば良い。 だがこの指導者を相手にした場合4体とも回復されてしまう。


「切っても切っても再生しやがる! 切りがないぞ」


忌々しそうに武器を竜に叩きつけるベルトラム。

彼は大きな傷を付けるよりも手数を優先し、回復する場所を増やすことで指導者の魔法に対抗しようとしていた……だが上手くは行ってない様で、付けた傷は全て回復されてしまっていた。


カールやマリーも似たような状況だ。


カールが相手をしている竜は刺さった矢で顔がハリネズミの様になっている。

だが、よくよく観察していると刺さった側から矢が抜けていくのが分かるだろう。 回復し、盛り上がってきた肉が矢を押し出しているのである。


マリーも魔法を連続で叩き込んでいるが、いずれもすぐ回復されてしまっている。

時折大きめの魔法を叩き込んで腕や脚を吹き飛ばしているが、それもすぐ様回復されてしまっていた。


このままだと我慢比べになってしまう……そう考えたゴリアテは次の手に打って出た。



少しずつ鉄竜を誘導し指導者の背後にまわったゴリアテ。

他の者が攻撃したタイミングに合わせて鉄竜へと突っ込む。


当然、鉄竜はそんなゴリアテをどうにかしようとその前腕を叩きつけるように振るう……が、ゴリアテは鉄竜の前腕を擦るように掻い潜り、そしてすくい上げるように剣を首に叩き込んだ。



「これならどうだ!」


剣は鉄竜の分厚い甲殻をバターの様に切り裂き、肉、そして骨を断っていく。


レベル補正だけではなく、武器の性能、そして何よりゴリアテの技量がなせる技である……が、切った端から肉が、骨がくっついていく。


ゴリアテが剣を振り抜いた後には何事無かったかのように無傷の首があった。

普通であれば即死の攻撃も難なく治してしまう指導者……背後で虚を突いたにも関わらず、いったいどういうことなのか? そう思いゴリアテは指導者へと視線を向けた。


「目が……」


指導者の触手にはいつの間にか口だけではなく目も出来ていたのだ。

背後にいるゴリアテにも対応できたのはこのためであった。


「カール! タイミングを見て指導者に攻撃してくれ!」


「えー、人使いあらーい」


「いいからやるっ」


「あいさー」


気の抜ける声でゴリアテに返事をするカール。


その声とは裏腹に繰り出される攻撃は苛烈を極める。

矢を手に取り、構えて放つ。その動作をほぼほぼノータイムで行い、その全てが竜の急所へと突き刺さる。


ちなみにいくら撃っても矢筒から矢が無くなる気配が無いのは、矢筒が特別だからである……恐らくはダンジョンの宝箱から出たものだろう。



そんな感じで竜へとひたすら矢を放っていたカールであったが、他の3人が竜へと攻撃するタイミングが揃った瞬間を見て、標的を指導者へと変えた。


放たれた矢は一直線に指導者の頭部へと向かい……障壁によって弾かれる。

そしてその直後、ゴリアテが相対していた鉄竜が頭を失いその場に力無く崩れ落ちた。


矢によってダメージを与えることは出来なかったが、詠唱を一つ潰せていたのだ。


「同時に行使出来るのは4つまでの様だなっ」


念の為、鉄竜の頭を遠くに蹴飛ばしたゴリアテ。

すぐ様ほかの者へと援護に向かう。





1体を倒した後は早かった。

二人で攻撃を集中させると回復が追いつかず、次々に倒されていく竜達。


ほんの1分かそこらで指導者の取り巻きは全て排除されたのであった。


「……結局攻撃はしてこなかったな」


詠唱を止め、ゴリアテ達をじっと見つめる指導者。

ゴリアテもそんな指導者を見つめ、ポツリとこぼす。


取り巻きとの戦闘中なぜか指導者はゴリアテ達へと直接攻撃することは無かった、ただひたすら回復に専念していたのである。


攻撃をする暇が無かったのか、それとも何か別の理由があるのか……考えても答えは出ない。


「指導者って皆そうなんだっけー?」


「さあな、こいつが特別かも知れん……くるぞ」


ただ分かる事は回復に専念していただけであって、攻撃が出来ない訳では無いと言うことだ。


指導者は触手を持ち上げ、ゴリアテ達が武器を構えると同時に駆けだした。




「っかてえ!」


戦闘が始まると同時にベルトラムが声を上げる。


触手を切り払おうと振るった剣が硬質な音を立てて弾かれたのだ。

触手の表面には傷が出来てはいるが深くは無い、ウネウネと動いているにも関わらず恐ろしく堅いようだ。


何度も同じ箇所を斬りつければいずれ切断できるだろうが……触手の一つが使った魔法によってすぐ様回復されてしまう。


さらには自身の堅さに自身があるのだろう。指導者は回復は最低限にし、残りの触手で攻撃魔法を放ってきた。


「ぐぅぅっ……禿げたらどうしてくれんだ!」


目の前に突如現れた火球。

ゴリアテは咄嗟に短く詠唱、魔法を掛けた盾で魔法を弾く……が、近距離で放たれた魔法を完全に防ぐのは難しい様だ。髪がチリチリと焦げている。


「こいつ魔法を撃ちながら触手で……!」


魔法だけでも厄介だが、触手自体で攻撃も可能で有り、それが一層対応を難しくする。


勿論、腕や脚でも攻撃可能なので……4対1にも関わらずゴリアテ達は攻めあぐねていた。



「む……」


だが魔法は無限に撃てるものではない。

戦闘を開始してから10分ほど経過しただろうか。

ふいに指導者の魔法がぴたりと止んだ。


取り巻きとの戦闘からひたすら魔法を使いまくっていた指導者であったが、ついに魔法が打ち止めとなったようである。


「魔法は打ち止め見たいだなあ」


魔法が止まれば回復も出来ない。

触手についた傷は徐々に深くなり、やがて触手は切断された。


全ての触手が切断された後もかなり粘りを見せた指導者であったが、やがて力尽きるときが来た。


交差するように放たれたゴリアテとベルトラムの剣により、胴体を輪切りにされた指導者は動きを止め……徐々に砂のように崩れていった。

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