第37話 「36話」

「タマさんどうしたの」


つんつんとタマさんに突き返し尋ねる俺。


「ウッドは木は纏えなかったニャ。でもそれならいけるんじゃないかニャ」


「! なるほどお!」


思わずぽんと手を叩く。

何もそこらにある木を纏わなくても自前のがあるじゃないか、蔦なら伸ばし放題だしこれを左半身に纏わせればいいわけだ。


早速試してみよう。

蔦を何本も生やしてそれでもって左半身へとぐるぐると巻き付けていく。

するとどうだろう、右半身と同じぐらいマッチョになったじゃないですか。

蔦が巻き付いているだけなんで見た目はちょっとグロいけど、まあ許容範囲である。


あとは上手く機能するかどうかだけど……お、ちょっと力込めてみたけどわるくなさそう……なんて思ったら。


「お、おぉ……おぉぉ……お? あ、あれ。 痛っ、ちょ……痛いこれ、痛だだだだっ!?」


「鎧がささるニャ」


「あー……」


鎧の上に直に巻き付けたもんで尖った部分がぐいぐい食い込んでくる。

地味に痛い。


嘘ですめちゃくちゃ痛え!

早く!早く解除してえっ!?




失意に再び地面に横たわる俺。

そんな俺の肩にぽんとタマさんの手が置かれる。


……タマさん俺を慰めてくれるのか、まじ天使やぞ……あ、違う。鎧引っ剥がそうとしてるだけだこれ。


「鎧脱ぐニャ」


「へい……」


タマさんに引っ剥がされるように鎧を脱ぐ。

そして再び半身に蔦を巻き付けていく。


「……これなら痛くない!」


ぐっと腕を動かしてみるが鎧を脱いでいるので当然さっきのような痛みはない。

下がっていたテンションも再び戻ってきた。


「試しにその木でも殴ってみるニャ」


「うっす!」


気合いをいれ腕をぐるんぐるんと回しながら木へと近付く俺。


……なんか転生してちょっとした辺りで似たようなことをやった気がしなくもない。

たしかあの時は殴った拳がくっそ痛くて悶絶してたんだっけ。

と、さあ殴るぞってときにふとそんなことを思い出してしまう。



ま、まあ……あの時よりレベルも上がってますし? たぶんちょっと痛いぐらいですむ……よね?


気合い入れて腕ぐるんぐるんと回しておいて、やっぱ止めますじゃ格好つかない。

……覚悟決めて殴るっきゃない。


俺は大きく息を吸ってぐっと止めると腕を思い切り振りかぶって木へと叩きつけた。


「おっらぁいってぇぇえ!?」


「腕折れたニャ」


「あー……」


ドチュッて感じの音と共に乾いた音が響く。

具体的にいうと前者が木がえぐれた音で後者が俺の腕が折れた音である。めちゃくそ痛い。


木を殴った反動……というよりかは木を殴った瞬間に蔦部分がぎゅっと引き締まって俺の腕を自分でへし折ってしまった感じである。

拳も痛いけどそっちは腕に比べるとたいしたことはない、骨は無事だと思う。


俺は失意と痛みで地面を転げ回るのであった。ハハハ。





それから数時間後。

検証を終えた俺とタマさんはギルドへと戻ると食事をすませ、今は装備屋さんへと向かっていた。


「まさかこんな形で鎧使わなくなるとは」


「仕方ないニャ。 下手な鎧より裸の方が強いニャー」


さすがに裸族はちょっと遠慮したいなー。


あ、そうそうあの後だけどね。

とりあえずタマさんにポーション分けて貰って骨折した腕は治したんだけど、このままじゃ使えないねーって話になってさ。

んでキンドリーさんがまず体を保護する目的で蔦を纏ってその後に攻撃するのを目的として蔦を纏う……つまり二重構造にしたら?とアドバイスをしてくれてね。


試しにやったらこれがうまくいった。

木を殴っても腕が折れることは無かったよ。拳は痛かったけどな!

右腕より若干力は劣るけど、たぶん利き腕かどうかぐらいの差だと思う。


あと見た目もちょっと改善したりもした。

ただ単にグルグル巻きにするのをやめて、筋肉ぽい感じになるように……つまりあれだ、筋肉剥き出しの人体模型。あんな感じになるように蔦を纏ってみた。


なんとなく筋肉ぽい見た目になったので多少改善されたと思いたい。

キンドリーさん、グロいとかいってたけど。



「丈夫な服でも作って貰うといいニャ」


「そだね、あとで特注しちゃおうかな」


「ニャ」


左半身へと蔦を纏うと一気に補正が入るので、今後はその状態で戦うことになるだろう。

そうなると鎧は着られないだろうからタマさんの言うとおり丈夫な服を特注で頼まないとだ……本当は鎧が良いんだけどね。


鎧は使う機会ほとんど無くなるだろうから……せっかくゴリさんと買った鎧だから捨てるなんてことはしない、ちゃんと磨いて油塗って大事に保管したよ。



んで装備屋さんへとついた俺はまず店員さんに事情を話した。


「ほー、またけったいな能力だの……ま、ええわい。丈夫な服じゃろ? 予算はどうする?」


「とりあえずこれぐらいで」


鎧のことは申し訳なかったけど、店員さんがそこまで気にして無さそうだったのが救いである。


服の予算を聞かれたのでどさりと銀貨のつまった袋を置く。

500枚入っていたりする。現在の手持ちのおおよそ半分だ……。


「しばらく使うんだからいいの買った方が良いニャ」


そんなタマさんのアドバイスに従い奮発したのである。


「1週間ほどで出来るわい」


鎧の時と違って一からしっかり作るので時間が掛かるそうな。

とりあえず大きめの服を別に購入し、前金として銀貨200枚渡して店をあとにした。


「とりあえず試しに狩りにいくニャ」


「オークあたり?」


夕飯まで時間もあったのでこの体を試そうとダンジョンに行くことになった。

たぶん鎧がなくとも今ならオークあたりであれば問題は無いだろう。


「ニャ。 様子見てその先もいってみるニャ」


「おうふ……お手柔らかにお願いね?」


出来ればその先は服が出来てからにしたかったけど……タマさん何か楽しそうだし。ま、いっか。



なんて思ったのがいけなかった。


「お手柔らかにっていったのにいいいい!!」


数時間後、俺はダンジョンの中層にて身の丈3mはあろうかという筋肉ダルマに囲まれ半泣きになっていたのである。

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