第35話 「34話」
キンドリーさんに体について教えて貰えることになった俺たちであったが、あまり人目がなくて広いところが良いとのキンドリーさんの言葉を受けて、今は3人でダンジョンの表層へと来ている。
キンドリーさんはまわりをざっと見渡して人がいないことを確認すると立ち止まり俺たちへ話しかける。
「ある程度は噂とか聞いてるかも知れないが、俺は……よっと。見ての通り両足が石と一体化しちまってな」
説明しながらブーツを脱いだキンドリーさんであったが、中から現れたのは素足ではなく石と化した足であった。
見た目は石で出来た鎧のようにも見えるそれは、固さも石と同じぐらいあるようで、キンドリーさんが軽く叩いてみせるとコツコツと硬質な音があたりに響く。
俺は右半身だったけど、キンドリーさんは下半身ってことか……。
「鎧みたいですね……」
しかもちょっと格好いいぞ。
「ああ、結構丈夫だぞ。 んで、こうやって……」
ブーツを脱ぎ、石がごろごろと転がる地面へと立つキンドリーさん。
すると石がまるで吸い付けられるかのようにキンドリーさんの足元へと集まっていき足元から太ももへ、そして腰、胴へと上っていく。
「おおー!」
ほんの10秒かそこらの時間でキンドリーさんの全身はまるで石の甲冑を着込んだような姿へと変わっていた。
やばい、なんか格好いいぞ! 俺の木とだいぶ違うなあ……。
「全身に石を纏うことが出来る。 この状態だとかなり補正はいるな。大体レベル15ってとこか」
ほー。15なのかー……そういや前にそれぐらいって聞いたような気がする。
やっぱ根っこで一気に吸うやつが強力なんだろうなあ。
「で、さらにだ……あの岩がよさそうだ」
ん?
なんかキンバリーさんがでっかい岩の上に乗っかって……あれ、なんか地面が揺れてる?
とか、考えていたら足元の岩がゴゴゴゴッて音を立てながら動き始めた。
「…………でっか!!」
「こんな感じで巨大な岩を自分の体のように動かすことも出来る……結構疲れるが強力だぞ。補正は……ま、秘密だな」
岩は巨大な人型となり、その場に立ち上がる。
その巨体からは想像がつかないほど滑らかで、人とそん色ない動きであった。
だが、ゴーレムのようなその巨体を維持するのはキンドリーさんにとっても割と負担になるらしく
少しの間動かしていたが、やがてゴーレムが崩れ落ち中からキンバリーさんがのそりと出てくる。
その顔には若干であるが疲労の色が浮かんでいた。
「ふぅ……あとは岩の中に潜ることが出来る」
「ふむふむ……ふむう?」
岩に……潜る?
どうゆーこっちゃいな。
「まあ見とけ」
「うわっ、にゅるって入ってった!」
首をかしげる俺に見とけといったキンドリーさんであったが、まるでプールに飛び込むかのごとく手近にあった岩に向かってダイブする。
岩にぐしゃりと頭をぶつけ、赤い花が咲く。そんな光景を一瞬思い浮かべたけどそうはならなかった。
死ぬんじゃね?と一瞬思ったが、キンドリーさんの体がまるで水面に飛び込んだ時のようにするりと岩の中へと入っていった。
「とまあこんな感じで岩なら自由に出入りできる」
「なんかすごいっすね」
潜った岩とは別の場所から顔をだしそう話すキンドリーさん。
ちょっとどや顔しているが、見ているほうはちょっと引いてたりする。
いや、まさか岩に頭からダイブするとは思わなくてね……。すまぬ。
「坊主……ウッドだったか? お前さんも試してみたらどうだ? 全部とは言わないがいくつかは真似できると思うぞ」
「うっす!」
とりあえず試すだけ試してみよう。
もちろん岩……じゃなくて木に飛び込んだりはしない。
なんかあれは出来ないような予感というか、やりたくないのだ。
失敗したら悲しすぎるし。顔面強打しそう。
「よっし、こいこい…………あ、あれ?」
とりあえずは纏うやつをやってみようかなーと。手近な木に手をついてこいこいと念じてみるがうんともすんとも言わない。ひどい!
「纏えないのか……? ならその木を自分の体と思って動かそうとしてみるんだ」
「は、はい」
と、とりあえず気を取り直して……次は木を動かすつもりでやってみよう。
俺の場合であればウッドゴーレムみたいな感じになる……はずである。
んで、最初の纏うやつを失敗していたもんでこれも失敗するんじゃないかなーと不安に思ってたんだけど。
そんな不安をよそにあっさりと成功出来てしまった。
地面がずさぁっと盛り上がり根っこがのしりと地面から這い出てくる。
……ちょっと見た目がもっとゴーレムぽくなるかと思ったのに。これじゃ木そのまんまじゃないのー。
えー、ちょっと格好悪いぞ……あれ?
「…………」
「どうした?何かあったのか?」
「なんか違和感が……自分の中に何か異物があるような……なんか変な感情がぐるぐるって……」
自分の中に何かがいて、それと混ざり合うような感覚……そんな感じがして俺は木との接続を解除した。
心臓がばくばくと煩いぐらいなっている。たぶんあのままずっとくっついていたら不味いことが起こる、そんな予感がすごくしたんだ。
ほんの少しの間であれば大丈夫かも知れないけど……どれぐらいの間なら大丈夫なのか、とてもじゃないが試す気にはなれない。
「……相手が木だからか? 生き物には意志がある、それが木だとしても……俺が自由に出来るのは相手が意志のない石だから?」
俺の様子をみて考え込むキンドリーさん。
独り言のようにつぶやいて、はっとした様子でこちらを見る。
「……洒落じゃないぞ?」
「ニャ」
なんか一気に気が抜けたぞう。
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