第20話 「19話」

お茶を飲むこと10分かそこらで店員さんは戻ってきた。


「おおー! びっかびかだぁ」


ほんとに錆は表面だけだったぽい。 おまけなのか棒の部分に布? が巻かれており、ちょうど手で持ちやすくしてくれていた。 ありがとう!


「よし、行くか。 じいさんそんじゃ後は頼むわ」


「んむ、任された」


「あ、ありがとうございましたー!」


こうして俺は繋ぎのだけど新たな武器を手にし、ダンジョンへと向かうのであった。


ダンジョンに入って歩くことしばし、俺は昨日草刈りをしたエリアへとたどり着いていた。

よっし、刈るぞーと思ったのだが……ゴリさんはそこで止まらずにずんずん前へと進んでいく。


「……あれ? 今日はそこで刈るんじゃないんですか?」


「午前中はゴブリン狩りだ、大量に狩れる場所があるからそこでしこたま狩る。 で、午後からはさっきの場所で草刈りだ。 上手く行けば今日だけで銀貨50枚は稼げるぞ」


「おぉぉっ! ……ぉぅ?」


疑問に思い質問した俺に対し、ゴリさんは午前中はゴブリン狩りをすると話す。

んで、午後からは草刈りと……なるほどなるほど? しかし、銀貨50枚ってすごくない? だって昨日稼いだのギリ10枚届かないぐらいだよ?


えっとゴブリン2匹の魔石で銀貨1枚だから……ん?

んんんんんっ??


「……80匹!?」


ちょっと多すぎじゃないです!??

だって、昨日必死こいてやっと1匹やっつけたんだよ?? 泣き言いわないつもりだったけど、これは普通に死ねると思うんデスヨッ!?


「そうだな、多ければもうちょい居るぞ」


「さ、さすがに多くないすか……」


もうちょいってそれ下手すりゃ100匹いっちゃうじゃないですか、桁変わっちゃうじゃないですかーっ!


「別に一斉に襲いかかってくる訳じゃない、昨日の稽古思い出せ。 お前ならこなせる」


「……分かりました。 やりますっ」


くそう、そんなまっすぐな目で見られたらやるしかないじゃないか。

やってやんよ、ゴリさんと比べりゃゴブリンなんぞ雑魚だ雑魚!


「よしよし……ほれ、あそこの広場の中心に変な岩があるだろ? あれの出っ張りを押すんだ、すると周囲のモンスターを集める音が鳴り響くから、後は寄ってきた敵をひたすら倒すだけ。 簡単だろ? ああ、ただ一斉に来るわけじゃないがもたもたしているとすぐ囲まれるから注意しろ。 ま、やばくなったら助けてやる、気楽に逝ってこい」


「うっす。 逝ってきます!」


なんか行ってくるの意味が違う気もするけど気にしない。


ゴリさんの言う通り、広場の中心に妙に目立つ岩がぽつんとある。そしていかにも押してくださいと言わんばかりにボタンのような出っ張りがあった。

あれを押せばモンスターが集まる音が……ってあれつまりは罠だよね? あんな分かりやすい罠があるのかと思わなくもないけど、ああもあからさまだと押したくなるものなのだろうか。


……よ、よし押すよ? 押しちゃうよ? 危なくなったらゴリさん助けてくれるって言うし……ぽちっとな。


……あれ? 何も起きないぞ? と、思った瞬間だった。 まるでサイレンのような大きな音が広場に響き渡る。

そして、程なくして近くの茂みがゴソゴソと動き、2匹のゴブリンが飛び出し俺へと向かってくる。


「っ……いきなり来たっ」


心の準備もまだだと言うのに……モンスターにはそんなの関係ないということだろう。

相手は2匹、以前戦ったときは1体だったが果たして上手く戦えるだろうか?



相手の攻撃がきたらどうする、そんなことを考える暇もなかった。

先頭のゴブリンが石斧を片手に飛びかかってきたからである。


危ない! そう思った瞬間体が勝手に動いていた。

俺は左手に持つ盾で石斧を受け流すと、体制を崩したゴブリンに向け右腕を横薙ぎに振りぬいていた。


繋ぎにと買った歯車付きの棒は果たして効果を発揮していた。

歯車部分が胴にあたり、ゴブリンは上下で泣き別れすることとなったのである。


後続のゴブリンも似たようなものである。

俺は一気に足を踏み込みゴブリンとの距離を潰すと武器を振りかぶり頭に思いっきり振り下ろした。

頭が弾け脳漿が飛び散り、それだけでは勢いは止まらず首元から腹まで引き裂き地面へと突き刺さる。


「よしよし、固さは取れてるな……敵が複数同時にきたら囲まれる前にまず先頭を確実に潰せ、お前なら相手が武器を振り上げて降ろすより早く一撃入れられるはずだ」


「はいっ」


第1陣をうまい具合に捌いたからだろう、ゴリさんは満足そうに頷くと俺にアドバイスをくれる。

2匹であれば問題なく勝てそうではあるが、それが数が増えてくるとどうなるかは分からない。 先ほどやったように一気に距離を詰めて叩き潰せば先頭は何もさせずに倒すことが出来るだろう。


俺はゴリさんに答えると次に備えて武器を構える。

すると先ほどとは逆側の茂みからゴブリンが今度は4匹飛び出してきた。


やべっと思いつつ、俺は一気に踏み出し先頭に向け武器を振り下ろす。ゴブリンたちは避けるということを知らないのだろうか、再び脳漿がはじけ飛んだ。

2匹目も振り下ろした武器を振り上げ顎を吹き飛ばす。 そこまではうまく行ったが3匹目は迎撃が間に合わなかった。 3匹目のゴブリンが振りかぶった武器が俺へと目掛けて向かってくる。


「っふ」


だが、盾の扱い方をしこたま文字通り身に刻まれた俺はそんな咄嗟の動きにも対応することが出来た。 とは言ってもまだまだど素人なんだけどね、ゴリさんと比べればゴブリンの攻撃は実に単純で捌きやすいのだ。

上手い具合に相手の攻撃をいなし、足を引っかけ転ばせる。 そして遅れてきた4匹目に向かい武器を叩きつけ、地面に転がっているゴブリンに追撃を入れる。


「よーしよしよし……足もとに死体がたまると足を取られたり、血で滑ることもある少しずつ移動するんだ」


「ハァハァ……っはい」


これで6匹目、足元を見ればあちこちにゴブリンの死体や血だまりが出来ている。

俺はまだ綺麗な地面へと移動するとそこでゴブリンが来るのを再び待ち構える。




「おーやってるやってるー。 調子はどー?」


戦い始めて暫く立った時、ふいにそんな声が聞こえてきた。

俺は戦闘中なので振り返ることは出来なかったが声で分かる、カールさんだ。


「見ての通りだ」


「……へー。 もう30ぐらい狩ってるね。 まだそんなに疲れてないみたいだし、ウッドくんほんとに優秀じゃーん」


もっと褒めていいのよ?

てかもう30匹も狩ってたのか……確かにそこまで疲れてないなあ。

あ、でもちょっと萎んできてるかも……? あと50匹以上持つだろうか?


「まあ、まだまだ動きは素人だがな……ちょいとばかし大振り過ぎる。 ウッド、お前の力ならもう少し力を抜いて小振りでも一撃で仕留められる。 そのままだと後半疲れて辛くなるぞ、少し意識して動いてみろ」


「ハァハァ……は、はいっ」


確かに、今のとこ全部一撃だし……ちらっと死体を横目で見てみる。

どれもこれも真っ二つになっていたり、体の大半がぶっ飛んでいたりする。

どうみてもオーバーキルですね、はい。


戦闘中に根っこでちゅーちゅー吸うわけにもいかなし、このままじゃ全部倒しきる前に体が萎みきってしまう。

省エネ大事。


「なんか変わった武器使ってるねー」


「あれ武器じゃねえぞ」


ええ、武器じゃないんです。


「えー? ……あ、ほんとだ。 あは、何でそんなの使ってるの? おもしろーい」


「鈍器買うまでの繋ぎだよ……ま、みた感じ十分間に合ってそうだがな」


実際そうだよね。

今のところひん曲がったりする様子もないし本当に丈夫。この右半身の力があれば威力的にも申し分ない。


「んで、お前はどうしたんだ?」


「ん? 暇だから見に来たんだよー。 昨日いったじゃーん」


ほうほう暇だからと……ん?

き、昨日……?


「矢を避けられるようにしないとねー」


「やめてぇっ!?」


やべえ、この人やべえ人だ。

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