<アロマといっていいだろう>

 目を覚ますと横向きだった。

 いつも通り。相変わらず寝る前と姿勢は変わっていない。

 室内が薄明るいのは、曇りでない場合は外が早朝または夕方であるためだと思われるが、後者とすると私は十六時間ほど眠っていたことになり、米村の機嫌やスマホに届いたミコッチからの三桁ほどのメッセージの確認と忙しくなる。

 それは大変だ。

 視線を動かしてナイトテーブル上のデジタル時計を見る。

『04:44』

 縁起が悪い。しかし午前中であることがわかり安心する。


 なんだか目を覚ました直後から頭がよく回っているように思うが、こういうことはよくある。ただそう思い込んでいるだけなのかもしれないが、こういうときは意識がとても鮮明に感じられる。そしてその後ほどんど二度寝が発生する。

 よくあることだった。


 米村は。

 寝る前に見た米村の姿を思い出す。たしか枕元で私を見ていたような気がするが、今は見当たらない。

 頬を枕にこするように前へ動かす。頭が少し重かった。

 枕の端に頭を持ってくる。

 すぐ下に米村はいた。体の左半分が枕の下に入り込むようになっているのを、私が真上から見ている。仰向けで大の字になり、小さな胸が上下に動いている。

 枕の端が少しだけ顔の重さでつぶれたが、米村を苦しめることはなかったようで、穏やかな寝顔は変わらない。


 米村の眠りをさまたげないように枕をそっとずらし、私もマットレスの上にそのまま頭をのせた。

 肩がしずみこむので、頭もほぼ水平にすることができる。体勢に違和感はなかったので、このまま二度寝することができそうだ。

 真横から米村を見る。

 小さな胸が上下していて、それ以外の動きはわからない。


 眠る前に米村が何かを言っていた。

 たしか見張っていてくれる――いや、見ていてくれる、といったことだったような気がする。

 さすがに途中で眠ってしまったようだが無理はない。妖精が、お米の妖精がどれくらい起きていられるのかはわからないが、米村はいつも早朝までには眠ってしまう。起きていたら私は心配になるだろう。


 窓の外で小鳥が鳴いた。

 米村から寝息は聞こえない。いびきをかくタイプの妖精ではないというのもあるが、小さな体で呼吸自体も小さく行われているのが大きい。

 頭をマットレスにこするようにして米村に近づく。

 米村が伸ばした左手に私の右のまつ毛があたると、左腕を曲げた。さらに近づくことができるので、鼻先が脇腹にくっつくまで頭をさらに動かす。

 近い。

 自分で近付いたのだけれど。

 ここまでくると寝息は聞こえる。あまりにも微かな音なので、呼吸で小さく上下している胸とワンピースの生地がすれている音にも聞こえる。

 それからいい匂いがする。

 お米が炊けたときの香ばしさよりずっと優しく、ほのかともいえるほどの甘い香りが鼻孔を撫でる。

 これは眠れるやつだ。アロマといっていいだろう。

 もう少しだけ鼻先を近づけて目を閉じた。

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