勇者、引き受ける

街外れにある展望台、昼間であれば憩いの場であるそこは月が空に登る頃には無人の場。


「普通に暮らすのって難しいのでしょうか…。」


すっかり静かなその場所で、勇者はボーっと街を眺める。


「「はぁー…」」


「「へ?」」


「あなたはさっきの勇者っぽい人!」「あなたはさっきの変な人!」


「ぽいではなく勇者です!」「誰が変な人!」


「あ…」


「え!」


「ち、違うんです。今のは…えーと…」


勇者の失言に魔術師は明るい顔になり、ジリジリと詰め寄ってくる。


「やっぱり私の目は正しかった!勇者様!はやく魔王を倒して。」


「嫌です。」


「えぇと…何故?」


「むしろ何故、私が倒さなくてはいけないのでしょうか?私は不思議でならない!」


その発言を聞いて、今度はしょんぼりする魔術師。


「あの、なぜそんなに魔王を倒して欲しいんですか?」


「実は、私の住んでいる村が魔王の手下の魔物に支配されちゃって…」


「その手下を退治するのではダメなんですか?」


「………ああ!」


その発想は無かったようで、魔術師は手を叩く。


しかし、すぐに表情が暗くなる。


「その魔物…凄く強くて…」


「魔王では無いのなら、退治手伝いますよ?」


「本当!」


「はい、ただ一つ条件があります…」


「何?何でも聞くよ。」


「では……勇者と呼ぶの…恥ずかしいんでやめて貰っても良いですか?」


next story 【勇者、憤る】

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