第四話 浮草


 剣武台はタタミ八畳ほどの広さと高さ三尺(約90センチ)の根肘木に支えられた特設舞台ステージである。

 台上にあがった剣士はそこから落ちると即失格となる。

 いま、大地と一丸は互いに充分距離をとって向かい合っていた。


 一丸が律動的リズミカル足踏みステップを繰り返している。

 対する大地はベタ足で居合い腰に沈み、木刀をゆっくりと左腰につけようとしていた。


 ダッ


 その刹那、一丸が動いた。

 あっという間に大地との距離を詰め、怒濤の面打ちを浴びせかける。

 大地は虚を突かれたといっていい。

 防戦一方となった。

 嵐のような上段からの連続攻撃に対し、木刀を盾のように振りかざして受けるのが精一杯だ。




浮草うきぐさを使ったか」


 一丸側の枡席で諏訪大三郎がつぶやいた。その隣に松浪剣之介もいる。


「わしが半年かかって修得した真桜流の運足うんそくを、あいつはたった一日でものにしおった。天稟てんぴんの才とはあいつのためにあるような言葉じゃ」


「…………」


 松浪はうなずきもしない。じっと台上の大地を目で追っている。




「ああっ、大地さん、あとがねえッ!」


 辰蔵が思わず叫んだ。

 大地は追い込まれ、外縁部のヘリから左足の踵が宙にはみだしている。


 ガッ



 そのときだ、一丸が膝頭を大地の腹に叩き込み、木刀で押し出すようにはねあげた。


「ああーーっ!!」


 観客がいっせいにどよめく。

 大地の体は鮮やかに宙を舞い、剣武台の外に弾きだされていた。



   第五話につづく


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