第四章:第501機動遊撃飛行隊、その名はイーグレット/06
「――――とまあ、そんな感じだ」
それなりの時間を掛けて、宗悟とミレーヌの二人からそれぞれの生い立ちや経歴を聞き終えると。翔一やアリサを始めとした面々は、その過去の重さに言葉も出ないといった風に……ただただ、黙りこくっていた。
「あーっと、その……なんだ。色々とアレなんだな、お前ら」
ただ独り、平静のままな霧子が静かに珈琲を啜る傍ら、南が何とも言えない微妙な表情で言う。それに続き椿姫も「人生色々だよー」と、何故かドラ焼きをはむはむと小さな口で食べながら、微妙によく分からないことを口走っていた。
「悪りい悪りい、チョイと空気重くしすぎたか?」
「僕らは別に大して気にしていないから、そんなことがあった程度に思ってくれれば、それで構わないよ。……だよね、宗悟?」
「おうよ。これから背中預け合う仲だ。色々と知っといて貰わにゃ、フェアじゃねえだろ?」
だが、漂う重い空気に耐えきれなかったのか。宗悟たちの方からそう言って、重苦しかった雰囲気をあっさりと崩してしまった。
そんな二人のやり取りが、妙に親密というか……二人が過去の馴れ初めを話している際の語気とか、ミレーヌの話をする時に露骨なぐらいに緩んでいた宗悟の表情。対照的に表には出さないようにポーカー・フェイスを貫きつつも、でも言葉の節々から色々と好意的な感情が漏れ出してしまっているミレーヌの語気だとか。それ以前に地上のエプロンで初対面の時から感じていたことだが、これは間違いなく…………。
「……翔一、分かる?」
「アリサも気付いていたみたいだね」
「露骨も露骨、気付かない方がおかしいわよ。……多分、他の皆も察してるわ」
宗悟がミレーヌと何やらニヤニヤと言葉を交わしている横で、アリサと翔一がそんな風に耳打ちをし合う。
二人が話している最中から、もう翔一もアリサも……というより、椿姫ら他の三人もだが。全員が全員、あの二人がお互いに対して好意を抱いていることは何となく察していた。同時に、互いが互いに向けている好意に何故だか気が付いていないことにも。
だから、ということもある。話が終わった後、どうにも微妙な空気になっていたのは当然、二人の過去が想像していたより遙かに重々しいモノだったということもあるのだが……それ以上に、一同の内心では「なんだこの二人」という思いの方が強かったのだ。
もどかしいというか、じれったいというか。お互いこれだけ露骨に好意を向け合っているのに、どうして気が付かないのか? と不思議に思ってしまう。それぐらいに、宗悟がミレーヌに向けているモノと、ミレーヌが宗悟に向けているモノは……ちょっと言葉に詰まるぐらいに露骨な好意だったのだ。
ちなみに、霧子がさっきから黙りこくっているが……別に今までの重い話のせいで、シリアスを気取っているからではない。ただただ目の前の二人に対して「早くくっつけ」と何とも言い難いアレな視線を送っているだけのことだ。これでいて霧子は意外とそういう話題が好きなタイプで、学院でもよく恋愛相談みたいなことに付き合っていると聞く。教師の身分で生徒の恋愛相談なんて、果たして良いものなのか……? と思ってしまうが、まあ……そこは霧子だからとしか。
とにかく、重い過去とか色んなことはありつつも。何にしても、想像していたよりも面白い二人であることには間違いない。それを思うと、翔一の口からは自然にこんな言葉が漏れ出てしまっていた。
「早速賑やかになりそうだな、アリサ」
「コイツらをアタシが引っ張っていかなきゃならないのよね? ……………やれやれだわ、本当に」
今更になって飛行隊長の役目の煩わしさというか、色々と改めて認識したのか――――翔一の言葉を受けて、アリサが溜息の後に大袈裟なぐらい肩を竦めてみせる。
「僕も色々と手伝うよ、大尉殿」
そんな彼女に対し、翔一は表情を綻ばせながら冗談めいたことを言う。するとアリサは彼の方にチラリと横目の視線をやった後で、また肩を竦めると……至極疲れたような口振りで、彼に向かってこう囁いた。
「ホントに、やれやれだわ…………」
――――と、何だかんだと満更でもなさそうな横顔で。
(第四章『第501機動遊撃飛行隊、その名はイーグレット』了)
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