第十三章:繰り返さない為に/01
第十三章:繰り返さない為に
「――――だから、アタシはもう二度と、絶対に……誰とも組まないって決めたの。もう失うのは嫌、もう誰も失いたくない。だから、アタシは……独りで飛び続けるって、そう決めたのよ。アタシのせいで死ぬのは、もうあれっきりでいい。もう二度と、アタシのせいで誰かを死なせたりしない。死ぬのは、もうアタシ一人で十分だから…………」
歩道橋の上で、全てを翔一に語り終えた後。夜明け前のまどろむ空を見上げながら、アリサは隣の彼にそう告げていた。固く悲壮な決意を滲ませた声で、翔一に語り掛けているというよりも……寧ろ、自らに対して言い聞かせ、強く戒めるかのように。
その後で、彼女はこうも翔一に言ってみせた。
「……私はあの時、ソフィアに生かされた。だから、誰よりも強くなくっちゃいけないの。誰よりも、何よりも強く……ね。
でも……半分素人みたいなアンタに、たった一度でも隙を見せてしまった。無様を晒してしまった。そんな不甲斐ないアタシが、アタシ自身が……どうしても、許せないの」
「だから、自分にそれを持っている資格はない……と」
彼女が手のひらの中に握り締めている、父の形見という金の懐中時計。ついさっきまで壊れていたそれに視線をやりながら翔一が問うと、アリサは「そうよ」と頷いた。
「だが……アレは単に、運が良かっただけだ。アレは単なる偶然で、たまたま勝てたに過ぎない。それ以外は全部、僕の負けだから」
「それでも、
…………お笑いよね。あれだけ気張っておいて、結局アタシなんてのはこの程度。どう足掻いたって、アタシは所詮この程度でしかないの」
――――だから、もう二度と。もう誰も、絶対にアタシの後ろには乗せない。死ぬのは、もうアタシ一人で十分だから。
「アリサ……」
そう呟く彼女の横顔が、あまりに悲痛で。それこそ涙を堪えているようにも見えてしまって。でも……そんな彼女に対し、どんな言葉を投げ掛けて良いのかも分からず。翔一はただ、俯く彼女の横顔を見ながら、彼女の名をそっと呟くことしか出来なかった。
「……悪かったわね。変な話に付き合わせちゃって」
そんな翔一の、複雑そうな反応に気が付いたのか。アリサはフッと薄く笑んで、彼にそう呟く。彼女は何も悪くなんてないのに、まるで詫びるかのように。
「いや……訊いたのは、僕の方だから」
言われた翔一は何だか申し訳なくなってしまい、思わず目の前の彼女からスッと小さく目を逸らす。するとアリサはこちらに向き直り、わざとらしいぐらいに肩を竦めるジェスチャーなんかをしてみせた。気にすることなんてない、と暗に彼へ伝えるみたく。
「ほんっと、今日はアンタに無様なトコ見せてばっかり。どうかしら? そろそろアタシに幻滅した頃じゃなくて?」
続けてアリサは自虐っぽく言うが。しかし翔一は逸らしていた目線を彼女に向け直しながら「そんなことはない」と、即座にそれを否定した。
「君は……最初から、魅力的な女の子だ。幻滅なんてしないさ。僕にとって、君は憧れで……そして」
――――そして、心奪われた存在なのだから。
先の言葉を、翔一は確かな言葉の形として彼女に告げることは出来なかったが。しかしアリサは「……ふん、上手いこと言っちゃって」と小さく鼻を鳴らし、
「でも……ありがと、とだけは言っておくわ」
続く言葉を、翔一からそっと顔を逸らしながら呟いた彼女の表情は。少しだけ……ほんの少しだけ、嬉しそうでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます