第十二章:アリサ・メイヤード/04
月面へ接近し、各部隊はそれぞれ所定の役割の為に散開。地球から月までの道すがら構築されていた空間戦闘機の大編隊が解かれ、薄灰色の無機質な大地の上に幾多もの機影が散っていく。
アリサたちに割り振られた役割は、作戦エリア内の航空優勢の確保だ。古い言い方をすれば、制空権の確保か。どちらにせよ、上がってくるモスキート・タイプなどの……マザーシップやキャリアーに対しての対艦攻撃を実施する、鈍重な空間攻撃機たちにとって邪魔になる連中の排除が役割であることには変わりない。
「タリホー、レーダーコンタクト! ……うわあ、凄い数だよアリサっ!」
「分かってるわよ、最初からね! でもこっちも相応の数を揃えてきてる、負け戦じゃあない!」
「それもそっか! ……よし、捉えられるだけ捉えた! 多重ロックオンは私が上手くサポートする! AAM‐03の射程距離に入ったら……アリサ! 撃ちまくっちゃって!!」
「言われなくても! ……イーグレット1、マスターアーム・オン!」
後席のソフィアに言い返して、アリサは計器盤に生えるトグル式のスウィッチ……搭載兵装の安全装置、マスターアーム・スウィッチを安全位置の「SAFE」から解除状態の「ARM」へと跳ね上げる。
彼女が頭に被る、パイロット・スーツのヘルメット。その透明なバイザー部分の、口元当たりが小さく曇っていた。自分でも気付かぬ内に、呼吸が少しだけ荒くなっているのか。アリサは自分自身に落ち着けと言い聞かせつつ、使用兵装をAAM‐03――――長距離射程のミサイルに合わせる。
ゴーストが主翼下の一番内側のパイロンに、四連ランチャーを介して左右合わせて八発を携行しているミサイルだ。彼女の機体に追従している、マイアミ基地所属のGIS‐12C≪ミーティア≫たちもそう。至近距離の格闘戦にもつれ込む前に、多重ロックオン可能な長射程のこのミサイルで……出来る限り、BVR(視界外射程)で仕留めてしまおうとの魂胆だ。他のエリアを担当している飛行隊も、皆似たような感じでAAM‐03を多く抱えて飛んでいることだろう。
「よし……あと二十秒で射程圏内! アリサ、準備して!」
「もう出来てる! ロックオンはアンタに丸投げするから、ソフィア! しっかり頼んだわよ!」
「分かってるって! データリンクがあるから、他の子たちとターゲットを被らせるようなことはしないから!」
言っている間に、敵の群れが遂にミサイルの射程圏内へと迫ってくる。緩く弧を描く地平線、月の灰色の大地と……そして漆黒の宇宙を背景にしたアリサの視界内に、敵機の群れはまだ見えないが。しかし機体のセンサーと、機体が吊した八発のミサイルの誘導シーカーは、確かに敵の機影をその射程圏内に捉えていた。
そんなセンサーが捉えた視界外の敵が、アリサの視界には……キャノピーの内側に映し出される戦術情報、四角いターゲット・ボックスとして浮かび上がる形で見えている。数百という規模でキャノピーに小さく映る、そのターゲット・ボックスの膨大な数を目の当たりにして。アリサは思わず、ヘルメットの中で小さく息を呑んでいた。
「よし……ロックオン! やっちゃえ、アリサっ!」
「
やがて、その数百のターゲット・ボックスの内の幾つかが、通常の緑色の表示から赤色へと切り替わる。視界に重なって映し出される八つの四角形が、ロックオン完了を示すピーッというブザー音とともに、だ。
その瞬間、アリサは右手で握る操縦桿のウェポンレリース・ボタンをグッと押し込んでいた。
そうすれば、機体が吊していた八発のAAM‐03長射程ミサイルが全弾発射される。編隊を組む他の≪ミーティア≫たちも同様だ。数十発という長射程のミサイルが前方目掛けて一気に飛翔して行けば……遙か彼方で、幾つもの爆発のような光がパッパッと連続して瞬く。
「よおし、スプラッシュ! 全弾命中だよ、アリサ!」
「滑り出しは上々ってことね……! よし、イーグレット1より各機、状況報告!」
『レッド1以下、レッド・チーム全機準備完了。いつでも行けるぜ、真っ赤な薔薇の
「オーケィ! なら各機、散開後はエレメントを維持しつつ突撃! 数が数よ、あんな量のモスキートが相手だと、≪ミーティア≫じゃあ格闘戦は少し分が悪いから注意なさい!」
『レッド1、
「アンタもね、レッド1! ……さあ、連中の火照った尻を蹴り上げに行くわよ!」
数十機の≪ミーティア≫を引き連れ、その編隊の先陣を切ってアリサ機が突撃していく。
そうすれば、遂に敵機の大軍団が視界内にハッキリと見えてきた。まるで羽虫のように……それこそ、名前通り蚊のように群がって迫ってくるモスキート・タイプたちが、搭載したミサイルの照準をこちらに定め始めれば、アリサ機を筆頭にロックオン警告のアラート音がコクピットに木霊し始める。
「全機、
すると、アリサは今まで維持していた編隊を解き。散開していく他の≪ミーティア≫たちとともに、眼前に迫るモスキートの群れに対しドッグファイトを仕掛けていく。
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