交渉(デュノア視点)

「それではこちらでお待ちください、薬師寺様を呼んでまいります」


 城に無事に到着したデュノアは応接室に通された。 バタンと扉が閉まったのを確認すると近くの椅子に腰かけ頭を抱える。


「大丈夫だ。 落ち着け。 交渉材料はこの城に着くまでに、さんざん考えたんだ。 大丈夫、きっと上手くいく」


 自身の交渉で国の未来が大きく変化するかもしれない事へのプレッシャーから、逃れるように自分自身に言い聞かせつつ、脳内で交渉のシミレーションをしながら待つこと数分、突如ドアがノックされて扉が開いた。


「お待たせして申し訳ない、私がこの国の王である薬師寺だ」


 子供のような背丈からは、考えられないほど落ち着き払った女性が部屋に入るなり、堂々と胸を張り自己紹介をする。 その様を見て、すぐさま腰を上げてこちらも挨拶を返す。


「こちらこそ、お見苦しい格好で申し訳ない。 私は、ドワーフ国のデュノアと申します。 本日は私の為に時間を割いていただきありがとうございます。 ……そちらの女性は?」


 入室したのは、薬師寺国王だけではなく、もう一人清楚な容姿をした女性も一緒だったため、視線だけを動かし、薬師寺国王に尋ねる。


「私の秘書兼ボディーガードだ。 デュノア殿の要望では、1対1で話をしたいとの事だったのだが、流石に戦争中の敵国の者と、私が1人で会う訳にはいかないのでな。 理解してほしい」


 そう言って自分から一番離れた椅子に薬師寺国王は腰かける。 警戒の色を滲ませる秘書と国王の非難にも似た視線を受けて、デュノアは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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