戦闘開始(山口視点)
必死に障壁を張りつつ回避に専念しているが、思ったよりも敵が強い。 しかも強いだけではなく数も多いため、すでに数発まともに食らってしまい腕や足の骨が折れている。 石井も腕の骨が折れて関節が妙な方向に曲がっているが、必死に私のサポートをする。
「山口先輩!! 石井!! 生きてますかッッ?」
そんな大ピンチの私たちに対し、急に荒川が話しかけてきた。 どうやら向こうは私たちの心配をするくらいには余裕があるらしい。
『助けてほしい』……その一言が喉の奥まで出てきたが、必死にその言葉を飲み込んだ。 荒川が余裕があるという事は少なくとも彼女1人ならばこの場は切り抜けられるという事だ。 なら私が足手まといになるような発言をすると不味い。 私がピンチと分かると、あのバカは自分の事はかえりみず突っ込んでくるはずだ、それだけは避けなくては。
「誰に対してものを言っているのかしら? 私が死ぬわけがないじゃない、石井と共にピンピンしてるわ。 舐めないで頂戴」
なので、できる限り余裕のある風を装って返答する。 石井も私の思惑を察してくれたのか、私の返答に何も異を唱えなかった。
「山口先輩、石井を連れて撤退することは可能ですか!? こっちは正直いっぱいいっぱいで、山口先輩方面の敵までは対応しきれないんです」
この後輩は先輩に対して無茶な事を言う。 荒川と違って私たちは走ることもできそうにないのだ、逃げられるはずが無い。
「撤退? 無理ね、数を減らさないと、どうしようもないわ」
「そこを何とかしてください!! じゃないと全滅します!!」
「そう? なら逃げようかしら、全滅は嫌だもの」
障壁をゴーレムが重い拳で攻撃し続ける中、恐怖から震える体を必死に抑えて余裕のある風を装い言葉を吐く。
「山口先輩、ちゃんと石井と一緒に逃げてくださいよ? たまに後輩である私のことをないがしろにするんですから、こんな状況なんです、忘れてたじゃ済まされませんよ」
「アナタだからないがしろにしてるのよ、石井にはそんなことはしないわ。 それに、戦いに関してはアナタには遠く及ばないけれど、カワイイ後輩を1人連れて逃げるくらいの障壁は張れるわよ。 余裕で逃げるから荒川もせいぜい頑張って生き延びなさい」
ゴーレムの攻撃で障壁にひびが入る、あと数分も持つか分からないので、早めに会話を終わらせる方向で思いっきりいつも荒川にしているような毒を吐く。 そして最後の最後までせめて先輩らしく振舞おうと心の中で決意した。
「そのカワイイ後輩をもう1人増やす気は無いですか?」
「残念、私の障壁は二人用なの、アナタは自分で何とかしなさい」
「了解です山口先輩、それではまた後で会いましょう!!」
「ええ、アナタがせいぜい惨めに死なない事を祈ってあげるわ」
その言葉を最後に荒川が話しかけてくることは無くなった。 本腰を入れてゴーレムの相手をしているのだろう。 そして言葉を交わし終えた数秒後、私の張った障壁は、無残に砕かれ、私は生身の状態でゴーレムと向かい合う。
「ごめんな……さい山口先…輩。 私は何も…できなく…て」
恐怖でカチカチと歯が音をたてる中でふいに細い声が聞こえた。 声の方に視線を送ると、石井が私の右腕をぎゅっと握って私と同じように震えていた。 その姿を見て、後輩一人守れなかったことに対して、現状の恐怖より罪悪感がこみ上げてくる。
「そんなことないわよ、石井は良くしてくれたわ。 それよりごめんね石井、私に力が無くて、後輩一人守れなかった不甲斐ない私だけど、許してちょうだい」
「私は……山口先…輩を不…甲斐ないだ……なんて…思ってい…ません。 私こそ…すいませ……ん先輩…を守れな…くて」
「お互い様かしら?」
「そう…です…ね」
ゴーレム達の目が不気味に光る中で、次の瞬間、ゴーレムの腕を振り下ろされ即死するであろうことを覚悟して、お互いに情けないながらも笑いあって泣いていた。
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