裏切りは突然にー2

「ココが私の部屋です」


 そう言ってイレーザが案内してくれた部屋は、客室というだけあって広く豪華な作りだった。


「何か飲みますか?」


「気にしないでくれ、俺は――」


 イレーザに対して背を向けた瞬間、ドス黒い殺気を感じて振り返りつつ体を捻り跳躍する。 すると僅かに何かが髪をかすめた。 体勢を素早く立て直して、攻撃のあった方向へ視線をやるとイレーザが短剣を持ち構えている。


「……よく、今の攻撃を避けられたわね。 完全に不意を突いたつもりだったんだけど」


「たまたまだ。 それよりも俺は部屋で二人きりにっても何もする気はなかったんだが、酒の時と同様にドワーフ的に何かマズイ事でもやらかしちまったのか?」


 俺の疑問に対して何かを答えるわけでもなく無言で切りかかってくるが、普通にイレーザは戦いの訓練を受けていないのだろう、全ての攻撃を軽く躱す。


「本当に何のつもりなんだ? 洒落じゃすまないぞ?」


「洒落ですむはず無いのは分かっています。 ですが、私はアナタを殺さなければならない」


「……理由を聞いても?」


「………私の国のためです」


 そう答えた瞬間イレーザが持つ短刀が鈍いを放つ。 そしてイレーザの姿が消えた。


「チッ!!」


 軽く舌打ちをして、左へ跳躍する、すると先ほどまで俺が立っていた足場が砕けて粉塵が舞う。 ただの短刀による攻撃とは思えない威力。 恐らくアレは魔道具なのだろう。 戦闘に向いていないため姿を消す魔道具をチョイスするとは、どうやらイレーザは本気で俺を殺すつもりらしい。


「アナタには完全に見えていなかったはず、何故よけられたの?」


「知るか、日ごろの行いだろ?」


 ワザとおどけて強がるが、今のが避けられたことは完全にマグレである。 しいて言うならばその場にとどまってはいけないという直感。 次が防げるとは限らない。


「そう、アナタもデュノア様と同じで鍛えているのね」


 そう言って再び姿を消すイレーザ、その瞬間、俺は入ってきたドアへとダッシュして魔力を込めた蹴りを放つ。 いくら戦闘に慣れていないとはいえ姿が見えないのは分が悪すぎるため、ここは逃げる事が最善と判断したためである。


 恐らくだが、その判断は正しい。 姿の見えない相手と手ぶらで挑むなど自殺行為としか言いようがない。 ここは撤退して助けを求める事がもっとも生き延びる可能性があるだろう、1つ誤算があるとすればそれは――


「ッッ!! 開かない!?」


 ――気が付かないうちに部屋中に結界が張ってあった。 魔力を込めた一撃だったにもかかわらず、ドアには傷一つついていない。 だが諦めずに、蹴り続けると酷く冷たい声が背後から聞こえた。


「無駄よ」


 その声が聞こえた瞬間、反射的に蹴りを声のした方へ放つ。 ミシリと何かを蹴り飛ばす感覚が足に伝わり俺は姿の見えない何かを吹き飛ばす。


 壁に叩きつけられたイレーザは、姿を現してその場で片膝をついた。


「また、反応したわね。 アナタには私の姿が見えないハズなのに、何故?」


 いや、普通に声を出していたら分かるだろうとは言わない。 ただでさえ不利なのだ。 これ以上不利になるような発言をする奴はとんだマゾ野郎か、とんでもないバカかのどちらかであろう。 それよりも疑問に思うべきことがある。


「そんな事より何故、無傷なんだ? 結構な力で蹴り飛ばしたつもりだったけど?」


「残念だったわね。 生半可な力では私の加護は破れないわ」


「加護の力ってインチキすぎるだろ」


 魔力を通わせた攻撃が効かないとなると、俺は本格的に逃げ回るしか選択肢にないじゃないか。 


「あなた達、加護無しが弱すぎるだけよ。 悔やむなら己の弱さを悔やみなさい」 


 それだけ言うと、イレーザは再び姿を消した。

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