街ー2

 路上にいる曲芸師は火を噴いたり。 空中を歩いたり。 槍の上に立ってジャグリングしたりと多種多様な技で周囲を沸かせた。


「すげぇ。 あんなこと出来る人間っているんだ」


「一応、私もできますけど」


 夢中になっている俺の横でボソッと呟く椎名。 その様は少しだけ嫉妬しているように見えた。


「えっ? 椎名あれ出来るの?」


「まあ、 あの程度で良ければ」


「あの程度って…椎名、流石にそれは」


 無理だろと言いかけて考え直す。 素人にまねできるとは思えないが、椎名なら出来る気がする。


「……あれ以上の芸とかもできる?」


「余裕ですね」


 珍しく、少し自慢げな表情を浮かべる椎名。 普段の冷静な彼女を知っているが、このような彼女の表情は初めて見た気がする。


「それじゃあ、今度、見せてくれ、楽しみにしてる」


「ええ、任せて下さい」


 そんな会話をしている内に芸は終わてしまったようで、先ほどいた大勢のギャラリーは、まばらになっていた。


「さて、 次はどこに行く?」


「菊池さん、少し早いですが本格的に見て回る前に、お昼にしませんか? 丁度、少し歩いたところに人気の屋台があるのですが」


「ナイスだ椎名、俺も丁度、腹が減ったところだったんだ。 こっちか? 早く行こうぜ」


 周囲の熱にあてられたためか自分でも驚くほど気分が高揚していたらしい、行こう行こうと椎名の手を引いて歩き出す。 そんな童心に帰って、はしゃぎまくる俺を見て椎名はクスリと笑った。


「菊池さん、 気持ちは嬉しいのですが、方向が違いますよ。 ご案内しますので、とりあえず落ち着いてください」


 手を引かれたまま椎名がやんわりとした笑顔をみせる。


「椎名じゃねぇか、ちょっと面貸しな!!」


 名前を呼ばれ振り返ると同時に、椎名の頭めがけて鉄棒が振り下ろされていた。 あまりに突然。 常人ならば今の一撃で対処もできずに倒れていたであろう。 だが、椎名は何事もなかったかのように、片手で鉄棒をはじく。


「チッ、何であれが防がれるのかわからないねぇ」


 そう言いつつ、再び複数回、凄い勢いで鉄棒を椎名に叩きつけるが、全て椎名に片手で防がれ攻撃してきた人物は距離をとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る