デート当日ー3

 椎名の言葉に、石井ちゃんはプルプルと首をふる。


「いえ、そうではなくて…言いに……くいのです…が私は…魔物と……戦闘経験が…ないんです…戦力としては…役に立ち…ませんが……本当に街に出ても……大丈夫……だったでしょうか?」


「大丈夫ですよ、ここから街に行く程度の魔物なら、たとえ10や20集団で襲って来たところで返り討ちにしますから」


 石井ちゃんの不安を払拭するためなのか、椎名は少しだけ得意げに胸を張って任せて下さいと付け加える。


 俺の常識からすれば、魔物が一斉に襲ってきたら普通は無傷どころか命さえ危ういと思うのだが、どうやら椎名にはそんな常識は当てはまらないらしい。 何とも頼もしいことだ。


 「ですが、万が一、大型の魔獣が出てきたなら私は交戦のため、少しの間だけ守れなくなるかもしれません。 その時用に一応の武器は渡しておきます」


 椎名は、何もない空間から剣を2本取り出し、俺と石井ちゃんに渡してきた。 剣を見る限り作りはちゃんとしている。 これならば十分に魔物に対処できるような剣なのだが。


「椎名、素人の俺や石井ちゃんが持っても意味がないんじゃないのか?」


 無論、俺は前世の記憶があるので素人ではないのだが、この世界での俺の生活を振り返ると、恐らく俺が剣を持たされるのは初めての筈である。 そんな素人を戦力として椎名はカウントする訳が無いとは思うが、渡された剣があまりにも立派だったため。 本当にただの保険なのかといささか疑問に感じた。


「ええ、お二人に戦力は求めていませんので安心してください。 これはあくまで保険です。 使う事はありませんよ」


「そうか」


 どうやら無駄な勘繰りだったらしい。 椎名の言葉を素直に受け止め嬉々として剣を受け取った。 一方、俺とは対極に石井ちゃんは恐る恐るという感じで受け取る。


「石井ちゃんも武器を持つのは初めて?」


「いえ、…一応……演習で……手に取……ること…自体は初めて……という訳ではな…いのですが、使用…するこ……とになる…かもしれな……いと思うと……体が震えま…す」


「先ほども言いましたが私が護衛する以上は武器を使う事態は起こりえないです。 怯えなくても大丈夫ですよ、石井さん」


 椎名はニコリと笑いながら、ぷるぷると震える石井ちゃんを慰める。


「さて、それでは行きましょうか、校外では、いつ魔物が襲ってくるかは分かりませんので絶対に私から離れないでください」


 俺と石井ちゃんは黙って頷く。 ニコリと笑顔を見せた椎名の後ろに付いて行き俺たちは初めて校門を出た。

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