決戦前夜(デート前夜)石井の場合
時刻は深夜1時に差し掛かる。 消灯時間はとっくに過ぎており、普段なら寝ている時間だが、明日に備えるために私、石井 霞は未だに起きていた。
2段ベッドの上でライトを点け、今日購入した鉄板デートプランという本を読み始めてかれこれ5時間。 普通5時間もあれば大まかな予定位は立てられそうなものだが、デートなどしたことのない私は、何が正しいデートプランなのか分からない。 そんな私が、この本に紹介されている数十種類のデートの流れやオススメスポットに翻弄されるのは当然の流れであり、決めかねている理由の一つでもあった。
けれども弱音を吐く訳にはいかない。 このようなチャンスはもう二度と巡ってこないかもしれない。 最低でも菊池さんとのデートを無難にこなせる程度にはならなければ、という使命感から次のページをめくる。 しかし、時間が時間なだけに、そろそろ行き先を決定しなければと思っていると。
「石井、もうとっくに消灯過ぎてんだから電気を消しなさい、警衛から何か言われるでしょう」
二段ベッドの下から顔をのぞかせてくる桃色の髪の女性は、この3人部屋で最年長である山口先輩である。
「山口先輩の言う通りだぞ、石井は文句言われないかもだが、山口先輩に代わって今日は私が部屋長代理なんだし、苦情がくるのは私なんだからな」
続いて緑色の髪の女性も顔をのぞかせつつ注意を促す。 彼女は荒川先輩。 この部屋のムードメーカーのような存在でいつも明るい活発な先輩だ。
「忘れていたわ、荒川後輩に苦情が来るなら別にどうでもいいわね、石井、何かの作業中なら続けて良いわよ。 なんなら騒いでもいいわ。 今日は荒川後輩が全責任を負ってくれるのだから遠慮する必要ないわよ」
「自分の責任にならないからって、後輩に変な事吹き込まないでくださいよ!?」
「冗談よ」
しかめ面をする荒川先輩に対して、表情を変えずに堂々としている山口先輩。 二人のやり取りは時々過激なところがあるのだが、いがみ合っているわけではないので、これが二人なりのコミュニケーションなのだろう。
「すいま…せん、夜遅くに……すぐに電気を…消します」
「いや、分かればいいんだ。 それよりテストも終わっただろ? そんなに熱心に何の本を読んでるんだ?」
「あっ…」
ひょいと私の読んでいた雑誌を取り上げる荒川先輩は、パラパラとページをめくる。
「鉄板デートプラン? 何だこりゃ?」
「デート? 石井がするの? だから夜更かしなんてしていたのね」
山口先輩が表情を変えずに私を見てきた。 表情こそいつものクールな山口先輩だったがその目の奥には、まるで面白い物を見つけた子供の様な光が宿っている。
「それで相手は誰なの? 先輩として知る義務があるから正直に話しなさい」
「山口先輩、それ、知りたいだけですよね? 人の恋愛事に首突っ込むなんて少し野暮じゃないですかね」
「荒川後輩、それは違うわね。 人の恋愛事だから首を突っ込んでいるのよ、自分自身の恋愛事ならば真剣に向き合えるけれど、他人事なら適当にかき乱せるでしょう?」
「タチが悪い!!」
「何とでも言いなさい、 さあ相手は誰なのかしら? 白状しなさいな」
山口先輩の言動に対し荒川先輩が蔑んだ目で見ているが、特に気にしたそぶりは無い。 はぐらかせる感じではないのでここは素直に答えておく。
「菊池…さん……です」
「えっ?」
「んっ?」
答えた瞬間、一瞬だが先輩二人の動きが止まった。
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