テスト明けー3

「何か、体を動かせる授業があれば少しは気分も晴れるんだがな」


 思わず溜息と一緒に本音が漏れる。 だって仕方ないだろう? 前世とあまりに違いすぎる。 毎日毎日座学の繰り返しで、いい加減ストレスで胃に穴が開きそうだ。


 前世に戻りたい……と誰に対しても吐くことのできない言葉を飲み込み、椎名の用意してくれた飲み物を一気にあおった。 ヒンヤリとした水が体の熱を奪ってくれたところで、椎名がつぶやく。


「体を動かすイベントですか……そういえばもうすぐ演習が行われますね」


 ……演習? 演習とは何だろうか? 会話の流れ的に体を動かせるイベントのことだろうが、毎日のように座学に興じているこの世界では、あまり期待が持てるようなイベントではないだろう。


「ごめん椎名、演習ってなに?」


 だが、もしかしたらといった期待を胸に、椎名に対して演習についての説明を求める。


「演習はこの国にある全学園の学生たちを2つのグループに分かれて行う戦争訓練の事です」


「戦争訓練?」


 口の中で言葉を転がして言葉の意味を考える。 俺の頭では戦争訓練とは集団で行う戦闘訓練という認識しか出てこなかったがそれで合っているのだろうか?


「それは集団で行う戦闘訓練の事か?」


「その認識であってますよ。 紅白組で別れて行う大規模な訓練行事です」


 争いごととは無縁の生活を行っていた学生が、いきなり戦闘訓練を行うとは、にわかに信じられない。 しかし、椎名がこのような嘘をつく意味もないので恐らくは本当なのだろう。 


「学生は勉強をするだけだと思ってたが、違うんだな」


「いえ、その考えで合ってますよ。 今回の様な特別な催し事でも無い限り、一般生徒は戦闘訓練なんて受けません。 まあ、一部例外として騎士クラスを筆頭とした将来的に、この国の防衛をになう特殊科などがありますけれど、その一握りの者たち以外は基本的に戦闘訓練などはしません」


 騎士クラス? 特殊科? ここでも聞きなれない単語を椎名が発したため思わず眉間に皺がよる。 そんな科があるなんて今の今まで知らなかったぞ?


「ごめん椎名、たびたび悪いんだが特殊科とは、俺たち学生と同じ年の者が戦闘訓練を受けているという認識で良いのか?」


「その認識であってますよ」


 そんなのあるのか。 なんで俺はそのクラスじゃないんだ? 不満に思うと同時に何故素人集団を混ぜた演習を行うのかは理解した。 恐らく本意はおおむね分けて二つ。


 一つは、いざ国取り合戦を始めたならば兵だけが戦うわけではない。 人材が足ら無くなれば一般人からの選出も十分にありうる事だ。 一般人がその万一に備えた訓練を行う事での国の武力の底上げが目的の一つ。


 そして二つ目、これは特殊科の指揮の訓練だろう。 集団をまとめ上げるのはソレなりのコツと経験がいる。 しかも日々訓練を受けていない者が参加するとなると、それこそ部隊が分裂しかねない。 それらを特殊科に経験させて部隊をまとめる難しさを学ばせることが目的なのだろう。


「なんにせよ、楽しそうだな」


 思わず笑みを浮かべて握った拳に力が入る。 椎名が言う事が本当ならば剣をとり模擬戦を行える。 それもちっぽけな規模ではない、話から推測するに、それなりの規模でだ。 そんな催し事があると聞かされたら興奮して今から演習とやらが待ち遠しくなるのも仕方がないだろう。

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