その玖:迸るは黄金帝龍の鬨の吠

 戦いは圧倒的にして一方的だった。

 曇天の空の下。人は倒れ、大地は荒れ、在ったもの全てが破壊し尽くされた廃墟のサービスエリア。

 対峙するは禍津星マガツボシ最高幹部四災神群しさいしんぐん、そして天津星アマツボシ総帥にして最強の超越者アウターの一人、白樺しらかば神愚羅かぐら

 四対一の戦は瞬きの間に幾重いくえも交差し、たちまち周囲の人間は中心の五名を除いて吹き飛ばされた!

 前口上も無いままに戦の幕は切って落とされ、瞬間彼ら以外の存在は端役にも満たぬ外野の存在と成り果てた!

 そして、戦いは──白樺神愚羅の快勝によって今まさに終わりを告げようとしていたのである!


「『天満流てんまんりゅう──鳴神術なるかみじゅつ──神愚羅無双かぐらむそう──』」


 着物姿の巨漢、白樺神愚羅が腰を落とす。帯刀した大太刀おおだち──『紫電しでん』の柄を機械の腕で掴み眼前の敵をしかと睨むその姿は、他ならぬ居合の構え!

 曇天の空が黒ずみ、雷雲と化して寄り集まる。神愚羅の周囲には雷気が立ち込め、獅子ししの如く広がった髪はふわりと舞い上がっていた!


「『豪牙狂乱ごうがきょうらん這荒鬼はいあらき』!!」


 飛行機が耳元を通過したかの如く凄まじき叫声!

 ちゃき、という抜刀の音が鳴り響いた瞬間、神愚羅の巨体は超速で踏み込み五畳の間を瞬く間に飛び越えた!

 そして居合の型にて抜かれた大太刀はあやまたず眼前を切り裂き、なおも遠心力を増して神愚羅の周囲三百六十度を灰燼かいじんと化す! その射程距離、およそ十尺(約30cm)!

 独楽こまの如く回転を続ける神愚羅は、一切を切り裂く雷神の刃! 速度を一切緩めぬままに四災神群しさいしんぐんを打ち滅ぼさんと奔る!

 そうはさせじと対抗したのは四災神群しさいしんぐんの三、玄武くろたけ嘉撫斗かぶと! 彼は何事か短く呟くと地中より魔改造が施されパイプが乱立した赤褐色のバイクを召喚した!

 嘉撫斗が手を伸ばすとバイクは鎧武者の如き外殻へと変形、半透明になると間の物体をすり抜け嘉撫斗の身体と重なった!!

 間もなく嘉撫斗の身は鎧に包まれ、さながら絡繰人形ロボットのような排熱と駆動音を響かせ唸りを上げた!


「見さらせ、これぞワイの『宇都娥流童うとがるど楼倶ろうぐ』ッ!! ワイのワイルドワイ、おっと!」


 名乗りの最中、独楽こまと化した神愚羅の放つ稲妻が嘉撫斗に直撃! しかし嘉撫斗はそれを意にも介さず歩みを進める!

 これぞ彼の鎧の持つ力、超越能アウトレンジを無効化・吸収する超越者アウター殺しの武具!

 赤褐色の鎧──いや、最早『機巧外殻きこうがいかく』と呼ぶに相応しい防具を纏った武者は、虚空より招来した薙刀なぎなた槁木死灰こうぼくしかい』を構え、独楽こまと化した神愚羅へ叩き付けた!

 薙刀は高速の刃に弾かれ神愚羅本人に攻撃は届かず! しかしなおも嘉撫斗は高速で薙刀を振り下ろし刃と刃を打ち合わせ続けた!

 回転を続ける神愚羅の勢いを削ぎ、隙を生み出さんとする力と力の激突である!

 互いに損傷を受けぬまま延々と続く打ち合い! しかし互いに疲労の色は見せぬまま千日手の状況が続く!


「無駄や! 魅須理瑠みすりるの刃はデカいだけの刀では壊せへん、更に言うならワイの鎧に、あんさんの雷撃は通用しな──なんやて!?」


 その時、不意に神愚羅が跳躍!

 だが地上では変わらず雷の独楽こまがぐるぐると回り続け周囲を灼き斬り続けている!

 見ればそこに在るのは大太刀を握る両腕のみ! 神愚羅は機械の両腕を分離パージすることで、大太刀を振るい続けたまま己が肉体のみを膠着こうちゃく状態から脱したのだ!

 しかしその位置は上空! 人間は空中で自在に動作を行うことはできず、ましてや両腕が無い状態であれば、身を逸らすことさえ困難極まり無し!

 即ち神愚羅は無防備にその姿を相手に晒しているのだ! これは如何に!?

 無論その機を逃す四災神群しさいしんぐん、嘉撫斗ではなく、槍投げの体勢に移り中空の敵を仕留めんと狙いを定めた!


「け、腐れじじいめ! 待っとれ、今すぐその身体ぶち貫いて──」


小童こわっぱが!! 『捲土天翔けんどてんしょう煉屠雀れんとじゃく』!!」


 しかし、宙空の神愚羅が眼下の嘉撫斗を睨むと、神愚羅の背が雷光で照らされる!

 そしてその雷光によって生まれた嘉撫斗の影が、にわかに雷光を帯び始めたのだ!

 瞬きの間に事態は進展する! 影の内より、雷でできた鳥──孔雀くじゃくの如く煌びやかに広がる尾羽を持つ鳥が現れ、嘉撫斗の身に襲い掛かった!

 実体を纏った雷は鎧武者を突き上げ、嘉撫斗を灼熱の光で責め苛みながら上空の神愚羅の元へ持ち運ぶ!


「ぐ、なんや、これわけわからん、なんで質量があるんやこれ──」


 背後からの衝撃に惑い浮遊感に溺れる嘉撫斗!

 体勢を整える間もなく宙へ浮かされた嘉撫斗に、神愚羅渾身こんしんの宙返りかかと落としが迫る!


「ちぇぇぇぇぇぇぇいッッッ!!!」


「ごっ、」


 激突!!

 神愚羅の履く下駄は超鋼の黒鉄くろがねであった!

 めぎょ、という鈍い音を響かせながら激突した超鋼くろがねは、武者の超鋼みすりるを揺らし装着者へ絶え間ない衝撃を与える!

 そのまま地上へ落下した嘉撫斗は脳震盪のうしんとうにより戦闘不能!

 華撫羅は分離した機械腕の行う独楽の中心に降り立ち再度腕を装着! 五体満足の身にて、次なる刺客を迎え撃たんと周囲に目を配らせる!

 その矢先、待ってましたと言わんばかりに雷雲が晴天の夜空に覆い隠され、無数の鬼火が神愚羅にとびかかった!


「『trick & screaming night』! お菓子をくれなきゃイジワルするぞっ!」


 四災神群しさいしんぐんの四、青龍あおだつ夏我美かがみ催眠ヒュプノによる絶対支配の錯覚である!

 たちまち辺りはハロウィーンの熱気に包まれ、キャンドルやジャック・オー・ランタン、紙吹雪やお菓子の山で彩られた!

 白い毛布を被った悪霊や足元の透けた亡霊達、魔女、狼男、吸血鬼、人造人間、がしゃどくろといった無数の怪物が周囲を闊歩する!

 そして神愚羅の持つ大太刀『紫電しでん』は瞬きの間に巨大なフライドポテトと化し獲物としての役割を放棄した!

 対峙する相手のみならず、戦況を見守る観客、果ては周囲の世界観や地の文に至るまで一切を操舵し脚色する花芽智の『trick & screaming night』の前では、天の雷様かみなりさまも形無しである!

 しかし神愚羅は腕の一振りにてポテトを振るい、迫る鬼火を切りつける! ジュウと香ばしい音が響いてポテトが焦げ付き、鬼火は離散した!

 手応えを感じた神愚羅は足を高く上げ、黒鉄くろがねの下駄を大げさに踏みしめて舗装されたパレードの道を蹂躙じゅうりん! キラキラと光る電飾の飾りを無造作に断ち切り逃げ出す怪物達に一括!

 神愚羅は文字通りハロウィーンのセットを踏みにじることで『遊びや異国の風習に理解のない頑固親父』という強烈な自己を保ち、花芽智の催眠ヒュプノをぶち壊していく!!

 そしてほころびの生じた夜空より飛来した稲妻は元に戻った大太刀に宿り、周囲一体を灼き尽くし幻想の怪物を一切否定!

 度重たびかさなる停電と火災によって夏我美の世界観『trick & screaming night』は崩壊した!


「そっ、そんなの無いよ~~~! 強引にも程があるでしょ何それズルくない!?」


「かような児戯じぎ、儂の前に在ることあたわず!!」


「ひ、ひ、ひどい! いたいけな子供と悪霊たちのお祭りなのにぃぃぃ!」


「悪霊、必滅!!!」


 神愚羅の鬼気迫る形相ぎょうそうを前に、夏我美は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した!

 追撃を行わんとする神愚羅を押し留めたのは、再度周囲より飛来する無数の炎!

 しかしこれは先の幻影ではなく、紛れもなく実在している現代兵器による人工のともしび──ミサイルが放つ光であった!


「さあ、耐えて見せなさい天津星アマツボシの主──『Aurum ignis probat黄金は炎を証明する』!!」


 四災神群しさいしんぐんの二、朱雀あけすず歌倶夜かぐやによる攻撃! 現代兵器による数の暴力というこの上なく明確な脅威である!

 大太刀の一振りで放たれる風圧と雷撃によって迫るミサイルを一掃した神愚羅は、しかしより一層数と勢いを増して殺到するミサイルに顔をしかめた!

 さらに廃墟と化した周囲の残骸より唐突にガトリング砲が出現し、秒間30発の超速連射を以って銃弾の雨を浴びせる!

 トドメとばかりに上空には空爆機の影が舞い、爆雷がひょうの如く降り注ぐのだ!

 四方八方より迫る冷徹な機械の殺意を前に、神愚羅は大太刀を地面に突き刺し合掌した!

 観念して介錯の時を待つか、神愚羅! いいや、そうではない! 神愚羅の直上に位置する雷雲は、これまでにないほど眩く輝き轟音を轟かせている!


「『凛戸絢爛りんとけんらん抛慚愧ほうざんき』!!」


 そして天より堕ちるは無数の稲妻!

 神愚羅を中心として絶え間なく続く雷のカーテンは、迫る銃弾の一切合切を焼き尽くし攻撃を凌ぎ続けている!


「嘘でしょうっ、そんな自然現象程度でわたくしの攻撃を遮断するだなんて!?」


「手慰みのなどで儂を愚弄ぐろうするか──百万年早いわ、小娘!!」


 神愚羅はぶわりと大きく大太刀を振るうと、雷のカーテンは放射状に広がり一帯をことごとく破壊していく!

 周囲に点在していた兵器群は全て溶解し、歌倶夜の攻撃は攻略された!


「小細工小手先の騙し打ちにしか能が無いのか禍津星マガツボシめら!! 然らばこの儂がこの場にて引導を渡してくれるわっっ!!!」




 一同は圧倒されていた。

 天津星アマツボシおさ、白樺神愚羅は四災神群しさいしんぐんを物ともせずただ行進を続けている。

 その比類なき強さに理由はない。ただ単純にして明快な事実のみが存在していた。

 そこには、たゆまぬ自己研鑽によって鍛え抜かれた武神のわざがあった。

 超越者アウターと成る前より彼はただ強く、そして成り果てた後には更に他の追随を許さぬ高みへと上り詰めた。

 豪快にして豪胆、頑固にして頑強。強さの果てに至った超人が、己の敵を蹂躙する。


「神愚羅総帥が戦ってるとこ、初めて見たぜ……マジパネェな。人類かあの人?」


 ふと呟いたのは、初めて花火を見た子供のような表情で眼前の光景を見つめていた華撫羅かぶら

 花芽智かがちら四人は倒れ伏した一般人たちを守るようにして、外野から戦の光景を見届けているのだ。

 神愚羅が現れ、敵が彼に狙いを定めた瞬間から、一同は完全に蚊帳かやの外の存在へ成り下がっていた。

 眼前の闘いにおいて、己が身は邪魔者でしかない。その事実は、花芽智の身を荒縄の如き窮屈さで締め付け続けていた。


「“大和魂やまとだましい”の文字列に取り憑かれた日本男児にほんだんじの体現者。そんな噂を聞いた事がありますね。実際に戦場に出たという話は終ぞ聞く事はありませんでしたが」


「……事実でしょうね」


 すっかり全快した様子で噂話を語る禍翅音かばねに、実の娘である花芽智が返答を返す。

 その顔は悲痛の色に沈んでいた。


「父は日本国に忠誠を誓った武人であると共に、かつての名誉国際親善大使でありました。超越者アウターの存在が明らかに成った際にはその伝手つてを用いて各国と協議を行い、現在の国際超越者アウター対策法案の成立にも携わったと聞き届けております」


「そうして間もなく自分も超越者アウターになったのですね。日本史上二人目の超越者アウター──その肩書とこれまでのキャリアが、超越者アウターを人間社会へ浸透させるかすがいとして大いに発揮されたということ」


 禍翅音の補足が、糾弾のような重みを伴って花芽智に突き刺さる。

 花芽智の家族関係はいびつである。端的な事実こそが彼女にとっては何よりも思い足枷となっているのだ。


「我が家……いえ、父の人生は、超越者アウターの存在そのものに振り回されたと言っても苦難の道だったことでしょう。故に超越者アウターへの対抗策として、軍事力すらも超越した究極の個人による力を求めておりました」


「だからか?」


 不意に口を挟んだのは品陶しなとう可夢偉かむい

 いつもの軽薄でへらへらとした軽い物言いではない。感情を押し殺した低く呻くような声だった。

 その視線は彼方を見つめていた。ここではない、遠い昔の誰かを見守るように。


「だから──そんな親父に応えるためにお前は天津星アマツボシに入ってよろしくやってるのか?」


「父は関係な……い、とは言い切れませぬが……けれど、今の私は己の意思でこの場に居ます。父に武術の教えを乞い天津星アマツボシへの所属を願い出たのは私の我儘わがままです。現に、同い年の妹は、超越者アウターとの関わりない日常の中におります故」


「……あっそう」


 両者の間には、言葉に言い表せぬどこか剣呑けんのんな空気が漂っていた。

 華撫羅は意図を推し量ることができず目を白黒させていたが、禍翅音はその光景を見て瞳を白桃色ピンクに輝かせていた。

 堪えきれないといった様子で顔を覆う両の手で姿は、醜悪な観客という演劇ロールプレイを演じているようにも見えた。




 たちまち四災神群しさいしんぐんを蹴散らした神愚羅は、手にした大太刀で眼前の男を指した。

 残るはただ一人。先ほどより喧騒の様子を背後から眺めている最後の四災神群しさいしんぐん白虎しろとら刈留魔かるまである。

 腕を組み背筋を伸ばすその姿には一切の油断の様子はなし。

 しかし、強大な敵を相手にするという緊張とも無縁のゆったりとした佇まいであり、それは戦の場においてはこの上なく場違いな様子であった。


「残るは貴様か。先の戦はしかと観ておった。刈留魔、などという珍妙な呪詛じゅそ返しとは片腹痛し。一刀の元にその身をろせば、呪詛を返すいとまもあるまい──その平静は懺悔ざんげの印か?」


「いいや。哀愁に浸っていたのだ、神愚羅殿よ。相も変わらず愚直な男だ」


「貴様のような知り合いはおらん。嘉麻戸かまどの使いか? さもなければ外套コートの下は嘉麻戸当人か? 表情かおも見せぬ軟弱者相手に語らう心算つもり無し」


 機械の腕をがちゃりと鳴らし、顎鬚を撫で付ける神愚羅の姿は、正しく雄獅子の如き尊大さを保っていた。

 2mに迫る巨体はあらゆる事象を高みから見下ろす。その険しい表情は常に相手を威圧する無意識の威厳に溢れていた。


「よく喋る。いや、人の事は言えんな」


「返答すら返さん不躾者ぶしつけものか」


「面倒だ。真実はお前の手で確かめてみろ」


「ほざけ下郎。死を実感する間も無く死ぬるが良い」


 神愚羅は居合の構えを取る。先の独楽こまの攻撃ではない。より強力な念を込めた絶滅の妙技──必殺の技。

 褐色の瞳は雷光色に染まり、天の雷雲は稲光いなびかりを放つ。

 機械の腕が前後左右に割れる。内部より現れたのは無数の避雷針。

 天より来る稲妻を己が両腕から大太刀へ伝え、触れたもの全てを分子単位へ分解する超常現象。

 それは、現世の闇に蔓延はびこ魑魅魍魎ちみもうりょうを討伐せしめんとして神愚羅が編み出した絶命奥義。


「『愚滅迅雷ぐめつじんらい霹靂神はたたがみ』!!!」


 神愚羅は黒檀の色と化した空より、天地を穿うがつ稲妻を纏う!

 一条の光を放つ雷の刃と化した大太刀は、不敵に構える刈留魔へ向かってあやまたず振り下ろされた!

 空が吼え、大地は割れる! アスファルトは消し飛び、土塊つちくれの地面が露出する!

 吹き荒れる風は木々を巻き込み、そして放射状に飛び散る雷が一切合切を灰燼と化した!!

 その只中にいる刈留魔の身などひとたまりも無し! 核爆弾にも匹敵する絶大な火力によって、刈留魔の肉体はちりと化した!

 化した、はずである! が、しかし! これは一体何が起こっているのか!?

 刈留魔は稲妻に焼かれ炭と化しながらもその形を保ち続け、途切れ途切れの笑い声を響かせている!

 奇妙奇天烈この上無し! 彼は己の超越能アウトレンジを行使することで、強引に己の死を拒絶し続けているのだ!


「『傍座梵我一如ウパニシャッド』……だ。如何な……手段を用いようとは滅びん……よ。今はまだ……な」


「ならば滅びるまでこの神鳴かみなりにてその身を滅し続けるまで!」


「ならば滅びるまでこの俺に付き合って頂こう……白樺神愚羅!」


 激情の叫びと共に刈留魔は両の腕を組み、己の持つもう一つの超越能アウトレンジを発動させた!


「『カルマ』!!」


 途端、天よりもう一条の稲妻が絶え間なく降り注ぐ! その向かう先は白樺神愚羅!

 荒れ狂う雷は二重螺旋らせんを描きDNA構成図の如く混ざり合っていく! 万象ばんしょうを灼き尽くす熱の矛先は、同じく森羅しんらを包み込む灼熱の先端!

 その激突は熱核の爆発を生み出し続け、周囲の温度を際限なく引き上げていくのだ!




「くっ、昏倒した皆は無事か!? この場から急ぎ撤退するぞ!」


「はいはーい、今やってまーす! 花芽智様、それから私達、ファイト、おーっ」


「どーせならこっちも応援してくんねえかなあ!?」


 『火雷天迅雷からいてんじんらい』によって迫る爆発を相殺し続ける花芽智、そして宙を飛び交う瓦礫を粉砕し続ける可夢偉と華撫羅がいなければ、この場に存在していた者は皆焼灼き尽くされていただろう!

 『禍翅音理論:人間原理アダルト・チルドレン』によって自己をし己が身を複製した禍翅音は、被害者一人一人を背負ってサービスエリアからより遠くへの逃走を始めていた! それはなんとも奇妙な絵面であった!




 神愚羅と刈留魔は互いに滅殺の雷を受けながらも、決してたじろぐ事無く敵を死に追いやらんと拳に力を込め続けた!

 今や他の四災神群しさいしんぐんでさえも二人の間に割って入ること能わず! 引き上げられたインフレの行く末は、前人未到の神の領域へと突入した!


「笑止!! 儂は神愚羅、天満流鳴神術神愚羅無双てんまんりゅうなるかみじゅつかぐらむそうの神愚羅也! 即ち我が身は天の雷神に等しく、己が繰り出す技などに身を焼かれる道理無し!!」


「そう……ろうとも! !! だが、ここ……らは新境地だ、とくと味わえ、白樺神愚羅!!」


 黒い塊と化しながらも意識を保ち続ける刈留魔!

 彼が指を一度鳴らすと、神愚羅へ降り注ぐ稲妻の量が増大! 四条の雷の帯となって神愚羅の身体を撃ち貫く!

 今や二人の立つ大地は雷によって削られ続け、クレーターの如き凹みを広げ続けている!

 台風の如く飛び交う風は削られた大地を巻き込んで、辺り一帯を破壊の渦に巻き込んでいくのだ!


「俺の『カルマ』が与……る『むくい』、その基準となる対象は俺個人のみでは……無い! “共同体”! 即ち俺にまつわる者達へ加えられた害も……『報い』となって貴様へ跳ね返るのだ!」


「然らばこの稲妻は、四災神群しさいしんぐんの……いや! 禍津星マガツボシとやらの所属者全員の分をも含めた威力か!」


「そうだ神愚羅!! 貴様が捨てた“仲間達”の『報い』を受けるがいい!!」


「笑止……千万!!!」


 仁王立ち!! 四束の雷に責め苛まれながらも、神愚羅は根を張ったように地面を踏みしめ大太刀を握り締めていた!

 血涙けつるいを流し、髪は焼け焦げ、歯茎から骨が軋む音を響かせようとも、神愚羅が屈する事は無し!

 機械の腕はとうに融解ゆうかいし大太刀と一体化を果たしていた! なれども、それでさえ彼にとっては些事さじに過ぎぬ!

 まさしく不動明王ふどうみょうおうの如き堂々たる立ち姿! 雷に打たれながらも眼前の敵を睨み据えるその背には雷神が宿っているのだ!

 神愚羅はここに来て均衡きんこうを破り、大太刀『紫電しでん』を薙ぎ払う! すると、彼に降り注いでいた稲妻は紫電しでんに巻き取られ大蛇のように神愚羅の周囲をのたうった!

 なんたる荒業あらわざ! 神愚羅は自身を害する稲妻さえも己が力とし、今一度いかずちの全てを従えているのだ!

 花芽智の放つ火雷天迅雷からいてんじんらいもまた軌道を逸らされ神愚羅の刀へと吸収されていく!

 そして、天を覆い尽くす巨大な黄金色の雷龍と化した稲妻が、刈留魔へと猛烈に襲い掛かった!!


「チェェェェェェェェェェェイストォォォォォォォオオオオオオッッッ!!!!」


 今やこの地上で最も膨大な熱量を持つ雷龍が、刈留魔ごと大地を抉り取る!

 しかしなおも刈留魔は健在! 『傍座梵我一如ウパニシャッド』によって己と宇宙の根源接続を果たした刈留魔は、世が存続する限り己もまた途絶える事なしという強烈な自我、我思う故に我在りコギト・エルゴ・スム的思考によって人の形を保ち続けている!

 一度ひとたび意識を手放せば即座に滅び去る微かな存在でありながらも、刈留魔は猛然と神愚羅へ立ち向かているのだ!

 その執念は果たして何処から来るのか!? 答えは依然として誰も知らぬまま、ただ刈留魔の胸中にて膨れ上がっていく!


「そうだ……貴様はいつもそ……だ!! 他者の力を、理由を、意味を、価値を……全てを己の手中……収め……そして……君臨する!! その傲慢はまさしく貴様のカルマ、そして貴様を生み出した超越者アウターそれもまた救い難きもの!! 故に滅ぼされねばならない、貴様は! 俺は! 我々は…………共に死に行け、神愚羅!! 『カルマ』!!」


 そして、もう一頭──『カルマ』によって、白銀色の雷龍が出現する!

 二頭の雷龍は互いを喰らい、喰らわれ、その力を得て、なお貪欲どんよくに相手を喰らい、絶え間なく続く生存競争の闘争を続け、その余波によって周囲一帯を残骸へと変えていく!

 それはまさに戦争の縮図! 己以外の全てを蹂躙してでも眼前の仇敵あだてきを仕留めんとする稲妻の奔流は、地上を灼き払い空を引き裂いて現世うつしよへ地獄を生み出していた!

 そして、決着の時が訪れる!


「ぬゥゥゥゥゥらァァァァァァ!!!」


 神愚羅は大太刀を振りかざした!

 『カルマ』によって生み出された白銀の雷龍は黄金の雷龍に飲み込まれ、つゆと消える!

 勢力を増し金銀の吐息ブレスを吐き出す神愚羅の雷龍は、己諸共に刈留魔を滅ぼさんと天を穿うがち地上へ迫る!

 大気圏を突破した隕石の如く灼熱の熱気を孕む雷龍が、全ての闘争を終わらせるべく降臨した、その時!


「まだだ──『カルマ』!!」


 刈留魔の叫びが再び響く!

 最期の虚しい抵抗か、そう思われた一声は果たして、その場に居合わせた全員を驚愕させた!

 彼は、今食われたばかりの白銀の雷龍を再び召喚していたのだ──それも、一匹ではなく、無数の龍を!

 それこそ二匹や三匹では聞かぬ、視界を白銀の光で埋めるほどの大量の龍が、空一面を覆い尽くしていた!!

 真っ黒に染まった雷雲を遮る白銀の光! 神々しくも恐ろしい、荘厳たる光景であった!


「何だと……この力は……何処から!?」


「何処からだと──思う?」


 愕然がくぜんとする神愚羅を前にして、刈留魔は不敵に笑みを作る。

 コートとハットによってその表情は伺い知れぬ。しかしこの時刈留魔は間違いなく、勝利を確信した愉悦ゆえつの表情を浮かべていた!


「何故今このタイミングで宣戦布告をしたと思う? 何故あの兄弟やセーラーVなどに尖兵せんぺいとして破壊活動をさせた? 何故超越者アウターの存在を世間に暴露したかわかるか? 何故幹部総出で貴様になぶられに来たか不思議ではないか? 何故映像を伴って全国区に事実を放送したのだろうな? それも、禍津星マガツボシ天津星アマツボシ、双方の名を明らかにした上で。そして、何故──首都圏付近のサービスエリア如きを戦場を選び、貴様と雌雄を決する戦に臨んだのか?」


 神愚羅の表情がみるみる驚愕をはらんだ怒りに染まっていく。

 刈留魔の手による種明かし。それは、今この時のためだけに入念に準備された雁字搦がんじがらめの罠!


「そうだ。憎悪ヘイトだ。人の激情を煽るためだ。無辜の一般人による憎悪を超越者アウター全体へと向けさせるためだ。人は如何に悲惨な事件であろうと、実体験を伴わなければ誠に憎悪や悲哀に沈む事は無い。それは逆手に取れば、どれほど小さな影響だろうと、己の日常を侵略する異物であれば人は意識を向けざるを得なくなるということだ──だから我々はこの地を戦場に選んだ。戦の模様を観測させるために、人々の意識を集中させるために──を崩壊させるために!」


「貴様っ、貴様そんな小癪こしゃくな真似を!!」


「俺がお前に対抗するために構築し続けた“共同体”。それはだ。超越者アウターによって己が日常を、人生を、世界を破壊された者達だ!!」


 禍津星かれらがその名を明かしたことで、天津星アマツボシの存在は明るみに出た!

 この20年間日本全国で発生し続けた超越者アウター事件、その全てに関与してきた天津星アマツボシ超越者アウターそのものへの憎悪を一手に担う囮役ヘイトとしてはこの上ない逸材!

 己が正体を隠し続け、世界の裏側で暗躍してきた禍津星マガツボシに対し、その存在力は圧倒的! ありとあらゆる損壊と殺害の責任が天津星アマツボシへと押し寄せる!

 その中核は、言わずもがな天津星アマツボシの頂点に君臨する者! その名は、


「そうだ。私は四災神群しさいしんぐんの中でも最弱だ。策をろうし、己が身を削り、仲間を騙して、癒しようのないきずを増やし続けることで──やっと仇敵あだてき一人を殺せる、愚鈍ぐどん末裔まつえいそのものなのだから」


柴垣しばがき嘉麻戸かまどォォッ!!!」


「『報い』を受けろ、天津星アマツボシ──白樺しらかば神愚羅かぐらッ!!!」




 そして、天津星アマツボシは今ここに壊滅した。

 一匹一匹が日本の国土全てを焼き尽くすに足る熱量の怪物、まさしく神群しんぐんと呼ぶに値する災害。

 天使の如く眩い煌めきを放つ白銀の雷龍、その暴力と呼ぶことさえはばかられる力の化身は、ただ一人を滅するためだけに殺到し、果たしてその役目を全うした。


「私は嘉麻戸様ではないさ。あのお方は今、此の世には居ないのだから。そう──今は、まだ」


「戯……言……をぉ…………貴様が……嘉麻戸で無ければ……一体……」


「さらばだ、遺物いぶつよ。そして、いつかまた会おう。再会の日は遠くはない。我々はすべて排除されるべき異物いぶつなのだから」




 秩序は崩壊する。

 世界は動乱の幕を開ける。

 超越者アウターの存在が世界中に知れ渡ったその日から、全ては終わり、そして始まる。

 東京上空に集結した無数の光輝く龍は現代の神話として語り継がれ、

 その伝説を目撃した語り部は独りとして帰ることはなかった。


 否応いやおうなく、前触れもなく、これまでの日常は崩壊する。

 新しくおぞましい残りの人生が、万人に等しく始まりを告げた。

 それが良き未来を生み出すのか。暗雲の時代の礎となるか。

 誰もその答えを知ることは無い。

 今は、まだ。






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花「今はまだ~。というわけで、ここからはあとがきスバルのっコーナーです!」

可「え、いや……なんか本編すごいことになってるけど大丈夫? 第二部とか始まりそうな雰囲気じゃない? 急に出てきたオッサンが急に出てきた因縁らしきものを消化して急に死んだだけなのに。俺達ほとんど活躍してないけど」

花「無から父や妹や生徒や校舎が生えるのが現代のトレンドと教わりましたよ。紫宮殿に」

可「あのクソアマお前に何吹きこんでるワケ?」

花「いやでも、おかげ様で色んなことが分かりましたよ! 物語のお約束とか。死亡フラグとか。最弱を名乗る奴は大抵やたら強いとか。これであとがきの世界で、無駄に困惑して文字数をいたずらに増やす心配ともおさらばです!」

可「はいはい俺の最強さいじゃくはちょっとばかし響くぞ。アントマンとかジョーカーとか、そーいう奴はみーんなそう。なんか無駄な心配ばっかしてるなお前。そのうち胃が開くんじゃないか。俺の胃に」

花「まああれでありますね。ぶっちゃけここで長期休載に入っても問題は無いので、そのあたりも含めたぶっちゃけということで。ちょうど四天王の能力もぴったり開示しました故?」

可「絶対まだ隠し種あるでしょわかってるんだからねおいちゃん。自称最弱の人がこれだけ好き勝手やってるんだから。あれでしょ、神愚羅お義父さん、じゃなくて叔父ちゃんが強すぎただけで他の連中も十分強いんだよぎゃーって話になるんでしょ。後からやっぱあの人バケモンだわって印象が強くなるやつ。オンスロート的な。ミラージュマン的な」

花「何故父? まあでもいずれ何とかなるでしょう。何しろ我々もまだあと二つ変身を残している」

可「残してんのお前と禍翅音だけだろ。俺ら男連中だいぶ打ち止めっぽい雰囲気出てたぞ。今回の避難の時もほとんど何もしてねえ」

花「大丈夫! 何しろなんか全員行方不明になってるっぽいので、再登場した時は無駄にベテランの風格を保っているはずであります。と紫宮殿が」

可「俺達ゃ修羅の国編のバットかなんかか? 見よう見まねの北斗神拳とか使ったりするの? いやでもそういや華撫羅先輩は経絡秘穴けいらくひこうとかどうとか言ってたわ。しかも俺針使いじゃん。やべえなんかマジにそうなりそうな気がする」

花「つまり恐れることは何もないのですね! このカクヨムの舞台で常識に囚われてはいけないのですね!」

可「マケドニア背景を背負うな。……つーかあれ? なんか雑談しかしてないけど、なぜなにスバルじゃないの? お便りは?」

花「あれは舞台背景を煮詰めるのがいい加減面倒になってきたので廃止されました。なので今回はあとがきスバルです。気が向いたらなぜなにに戻ります」

可「行き当たりばったりすぎんだろ」

花「我々は瞬間瞬間を必死で生きてるんです! 凸凹で当たり前です!」

可「瞬瞬必生を言い訳に使うな。どう見ても適当に生きてるだろ。人生の合間の休息じゃなくて休息の合間に人生やってるんだろ」

花「うーん。否定できませんね!」

可「みてくれだけでもしてくれ」

花「というわけでこの辺で今回はお別れです。次回は多分第二部的な始まりになると思いますよ~。ではまた~」

可「マジでレイズナー第二部みたいになってそうで怖いよ。というか主人公交代したりしない? 丁度お前妹とかいるらしいじゃん。その子がこれまでの一般人目線をやって異なる視点から世界の変革を映し出す~みたいな」

花「しーっ」

可「え、マジすか」

花「しーっ」

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