無理を通すのは道理?

 増えた。増えた事はよいことだ。減るよりよいこと。

 だからいつも通りに過ごしていた。

 増えたからと、いつもと違ったらだめだった。

 いつも通り少しずつ、少しずつ……だった。


 空に打ち上げられた。


 空に見覚えのあるものを見付けた。煩いな、見覚え、見た事なんてない、皆落ち着いて、見覚え……見えてなんてない。ぶっ殺してやるんだ。悪くない……それでも解る。痛いよ、静かにしてくれ。良い気持ちだ、あんなもの見たのはこれで二度目。初めて。何あれ?見た、なんて不幸!苦しいよ、見た事なんてない!終わらせてくれ、もう止めてくれ!終わるんだよ!殺せ殺せ殺せ、誰を?もうやめましょうこんな事!許せないんだよ!壊れてる。もういいだろ!終われないんだよ!返して!無数の塵芥如き狂う力が極小の内に集まり圧縮されていく。逃げられない、ぶつかり合い、砕けて終わる事も出来ずに小さく小さく一つになって本能のままに動いて壊れて壊れられずに終われず終わりたくて足掻いてそれでも矢張り貪って……そして一つだけ、忘れられていたもう憶えているかも危うい烙印が伸ばしていく。


 『壊せ』


 最後に残ったのは一つだけだった。




 足が全方向から押し潰されていく様な感覚。ジーニアスさんの発明があるにもかかわらず、もう痛いとさえ感じていません。

 でも、未だ私の足の骨は折れていないのです。未だ動いています。何より、後ろから来る何か・・から『全力で逃げろ』と教授でも私でも無い声が頭の中で叫んでいるのです。

 足音も声も聞こえない。気配さえも殆ど感じられない後ろの何か。怖がる理由は何も無い筈です。しかし、ジーニアスさんは先程こう言いました。

 『後ろから何か・・来ている。気を付けてくれ!』と。

 聡明なジーニアスさんが何かを特定出来ていないという段階でそれは十二分に脅威なのです。


 現状、私の足でもなんとか追い付かれていない事は喜ぶべき事です。

 嗚呼、でも問題はこの後。

 入口付近は今走っている場所ほど広くはなく、如何に無理をしても、足掻いても、移動速度は低下せざるを得ない。

 辛うじて動かす事が出来る視線をジーニアスさんの方に向けると、その視線は先程加速させた前と後で一切動いていないのです。

 徐々に道幅が狭くなっていく中、逃げ切れていない。

 このまま距離を引き離せなければ入り口に辿り着く前に確実に捕捉される。


 如何、しましょう。

 楽観的に考えて、ジーニアスさんが自分で私以上に動く手段を持っていたとしてもこの状況下ではそれを使う事は難しい。

 急ターンして不意を突いて迎撃……私の持つ力とジーニアスさんの持つ力を足し合わせて、相手を制圧出来るかが解りません。




 逃げるには、少し無茶・・をするしかないでしょう。

 移動しながら魔法を準備しようとして……止められました。

 「その必要は無い、移動速度をそのままキープ!自称そこそこ天才の腕を見せてあげようか!」

 手の中で大人しくしていたジーニアスさんが、動きました。

 次の瞬間、目の前の地面に異様な影が映り、轟音が響いたのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る