怠惰の酒が運んでくる
木々の間を抜けて、雑木林を踏み荒らして不気味な森を歩く、歩く、歩く、歩く…………………。
背負うものが後ろへ後ろへ、地面へ地面へと引き摺り込んでくる。
それでも背負うものを捨てて行こうとは全く思わない。 寧ろ背負っている男はその重さが心地好いとまで感じていた程だ。
誰だって、金の重さで潰れそうになったり、宝の山の一部が圧し掛かったりする苦労は嫌いな訳がないのだから。
ああ、金が手に入る未来が見える。
両手に一杯、溢れる程の、自分の背丈を超える程の、一生遊んで暮らせる、絶対にしないがドブに捨てる程、死ぬ前に使い切れるか解らない程の、今まで見たこともない様な、この世の贅沢という贅沢を片っ端から出来るような、貴族よりも王よりも豪華な生活が出来る程の金、金、金、金、金!
金が、手に入る!
重さをものともせずに男は森を歩く。
植物学者、ウルス=グレイナル。
しかし当然ながらそんな肩書きと名前は真っ赤な嘘で、本名はミリー=ドゥムシン。金が大好きなのだが労働や努力や勤勉というものが大ッ嫌いなみみっちい拝金主義の詰まらない小悪党であった。
そんな小市民ドゥムシンが植物学者のウルス=グレイナルを名乗り、廃村寸前の忘れられた村に来て、曰く付きの森で重い荷物を運んでいるのは何故かといえば、当然ながら金の為であった。
一ヶ月ほど前の事。ドゥムシンは昼間から浴びる程酒を呑んでいた。
勿論、夜間の仕事を終えた後の一杯という訳ではなく、昼前に起きてそのまま目覚めの一杯と言いながら浴びる程呑んでいる。
酒は良い。自分が金持ちで金持ちで仕方がない快い心持ちにしてくれる。
そして酒は悪い。自分が金持ちで金持ちで仕方がない訳ではないと突き付け、そして金持ちから遠退かせる。
「金が欲しい……」
味の悪い安酒の味が気にならなくなった頃、呂律の回っていない舌でそんな事を口の中で呟いた。
阿呆な老いぼれやガキや小娘を騙したところで大した金にならない。
女子どもを攫って売っ払えば少しばかり金になるが、その手の商売は碌な連中が絡んでいない。
金持ちを襲って成功すれば少しばかり大きな金が手に入る。が、失敗すれば金どころか全てを失う。
「金が、欲しい……」
世の中は上手くいかない。金が欲しいのに金が全く手に入らない。こんなにも考えているのに悩んでいるのに欲しているのに金が手に入らない。
もっと簡単にもっと楽に自分だけが両手に目一杯の金を手に入れて遊び惚けて暮らすための方法は一体何処に在るのだろうか?
安酒の酒精が回り、瞼は重く、視界は暗く、体は沈んでいった。
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