二つの星は
シェリー君は徹頭徹尾冷静沈着であった。
だから先程から何処からともなく聞こえてくる自称そこそこ天才の声を敢えて無視していた。
『オーイ、モリアーティー嬢!その近辺に仕掛けた魔道具に引っ掛かった反応があった!そちらに急行しているが少しばかり時間がかかる。その間安全を確保して隠れているんだ!いいな⁉聞こえているか⁉聞こえていたら返事を!』
パラメトリックスピーカーの機能で自称植物学者の耳にそれは届いておらず、シェリー君と孫娘にだけそれは聞こえていた。
「モリー?」
それに対して孫娘はといえば声だけで伝わる自称そこそこ天才のただならぬ様子に不安を抱き、辺りを見回していた。
それに対してシェリー君は、先程も言った通り冷静沈着だった。
「えぇ、
孫娘ではなく、ここには居ない発明家に向けてその言葉を届ける。
『そうか、警戒を怠らない様に、人命優先だ。』
それだけ残して言葉が聞こえなくなった。
そうこうしている内に自称植物学者がリュックから小型のツルハシもどきを取り出して、木の幹に叩き付けた。
「……アハハハハハハ……樹液、採取しようかなと思ってやってるんだけどこの通り。
頑丈なのも考えものだね。」
そう言いながら痛がる様子を見たシェリー君の目の奥には、小さな二つの星が光ったのだった。
「大丈夫ですか⁉」
血相と表情を変えて、心配したシェリー君が駆け寄ってツルハシを振った方の手を掴んで袖を捲った。
「触って痛い所はありませんか?感覚が無くなっている事は?炎症は…脱臼は……折れていませんか?」
肘まで服を捲り、その下にある筈の、そして今目の前にはそれが無い事を確認した。
「あ、いや、大丈夫、大丈夫だから!そんな心配をしないで大丈夫。ちょっと大袈裟に痛がっただけで折れてもないし脱臼も打撲も捻挫もしてないから、大丈夫。大丈夫!」
シェリー君が本気で心配をした事で、今度は自称植物学者が戸惑い、顔を青くした。
そこには警戒心や敵意害意の類が無く、自分の目の前の少女の心配する様に動揺した者のそれだった。
「本当に大丈夫ですか?」
「本当だ。大丈夫。心配をさせて本当に申し訳ない。」
「……少しでも痛ければ、その時は決して無理をせずに言って下さいね。」
そうして、自称植物学者がシェリー君の様子に驚き道化となり、時間は何の変化ももたらさずに過ぎて、『現着した!無事か?』という自称そこそこ天才の一声によって自称植物学者との森探検は終わりを迎えたのだった。
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