白、灰色、青、茶色、琥珀色

「モリー?」

 「えぇ、聞こえていますよ・・・・・・・・大丈夫です。」

 少女二人がヒソヒソと内緒話をしている。それを聞いて理解しているのは我々だけだ。

 少しだけ前を歩く自称植物学者はと言えば、それに気付かずに……

 「大して楽しいものではないのだけれど、まぁこの辺の良さそうな木を見付けたら、出来るだけ上の方にこれで……ッ」

 そう言ってリュックから小型のツルハシもどきを取り出して、人間の後頭部に穴を開ける時の要領で木の幹に向けて思い切り叩き付けた。

 本来、金属製のツルハシを、細身とは言え大の男が振ったのなら、頭蓋骨であっても木の幹であっても見事に穴が開く。

 今回に限っては違った。男の使う身体強化の魔法が貧弱であった事や穴を開けようとした箇所が上過ぎて力が入り切らなかった事を加味しても、木の薄皮にツルハシの先端が辛うじて食い込んでいるだけの、手を離せばツルハシが間違いなく幹から抜け落ちるこれは明らかに異常だ。

 現状異常しかない。

 「……アハハハハハハ……樹液、採取しようかなと思ってやってるんだけどこの通り。

 頑丈なのも考えものだね。」

 ツルハシを先程振らなかった方の手で回収して、顔を顰めながら振るった方の手をふるふると振る。

 「大丈夫ですか⁉」

 血相を変えたシェリー君が駆け寄って、ツルハシを振った方の手を掴んで袖を捲った。

 「触って痛い所はありませんか?感覚が無くなっている事は?炎症は…脱臼は……折れていませんか?」

 肘まで服は捲られて、白い肌が露わになる。

 「あ、いや、大丈夫、大丈夫だから!そんな心配をしないで大丈夫。ちょっと大袈裟に痛がっただけで折れてもないし脱臼も打撲も捻挫もしてないから、大丈夫。大丈夫!」

 シェリー君が本気で心配をした事で、今度は自称植物学者が戸惑い、顔を青くした。

 「本当に大丈夫ですか?」

 「本当だ。大丈夫。心配をさせて本当に申し訳ない。」

 「……少しでも痛ければ、その時は決して無理をせずに言って下さいね。」

 自称植物学者に目が向いている様に見せて、その実シェリー君は腕に目をやっていた。




 「この辺りの土地は非常に痩せている。というか、そもそも土じゃない岩なんかがゴロゴロしている。ここを掘れば岩がゴロゴロ出てくるだろう。

 これだって、そこそこの大きさの石くらいにしか思えないだろうけれど、こうして引っこ抜こうとするとびっくり!微動だにしな……おっと。」

 自称植物学者は先程のシェリー君の反応が堪えて、先程から調査そっちのけで全力で道化始めた。

 今も大層立派な学者の顔をして明らかに地面に転がっている石ころに向けて蘊蓄もどきを口にして、いざ実際に石を引っ張ると、簡単に地面からそれはすっぽ抜けて尻もちをつく羽目になった。

 「グレイナル様、もう大丈夫ですから、解りましたから!無理はなさらないで下さい!」

 今度はシェリー君が顔を青くして、そして……

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