悪魔は刃物で殺せない

 「『そこで眠っている3人が協力してドクジーさんを追い詰め、その後到着した村人総出で抑え込み、無事拘束した。』

 そういう筋書きで彼らには説明をお願い致します。彼らの名誉をいたずらに傷付けたくはありませんから。ね。」

 衰弱に近い状態まで弱り切っていた様に見えていた少女が目の前で淡々と冷静に言葉を話している。

 今も衰弱している様子は変わっていない。オーイに肩を借りて立っているし、本当に辛そうなのは間違いない。

 だが、眼は違う。言葉は違う。

 こちらに向けられた視線を直視出来ない。

 こちらに向けられた言葉に逆らえない。

 少女の濁りの無い、真っ直ぐでキラキラと光を乱反射させる眼の最奥に、何か・・が居る気がした。

 その何かは少女の本質である様で、本質とは別の異質なものが少女の身体を借りてこちらを見て、喋っている様で、底知れない。

 ただし、一つだけ言える事がある。


 『逆らうな』


 命辛々からがら怪物から逃げ延びた後の様に自分の心臓が音を立て、そんな風に頭の中の本能が喚き散らしている。

 逃げられないのであれば、生きたいのであれば、せめて逆らうな。

 少女の最奥に居るのは、触れてはいけない怪物だ。




 シェリー君は前の大立ち回りで既に満身創痍、限界を超えて既に意識が無くなっていた。

 という事で、当然私が代打を担っている。

 この後の事を考えて、当然恐怖による支配は行わない様にしている。後でシェリー君が気付いた時にこっ酷く怒られかねないからね。

 「この村でドクジーさんを拘束出来るだけの設備や道具はありますか?」

 禿頭の男が顔を伏せて震えている。

 「い、いえ、御、座いません。どうすればよろしいでしょうか?」

 上擦った声で言葉を絞り出しながら顔を上げる。先程までの下手な作り笑いとその下にあった敵意モドキは完全に掻き消えて、傾聴と服従の姿勢が出来ている。

 禿頭の表情が強張った。

 しぶとく残る殺意がそこにある。

 シェリー=モリアーティーを殺そうとする気配が隠し切れていない。





 「死ねぃ!」

 背後から足音を殺した毒爺・・が上段から杖を振り下ろそうとしていた。

 正確に言えば、先程は使えなかった・・・・・・杖の中の仕込み刀を振り下ろそうとしていた。

 「ヒッ!」

 「?」

 禿頭は毒爺の殺意に満ちた顔で怯え、孫娘はシェリー君の体を支えていて何が起きているか気付けていない。

 術式の出力は予め決めておいたもの。シェリー君のガス欠で出力不足という訳ではない。

 老人相手だからと元から加減した結果がコレだ。

 「甘過ぎる事自体は責めないが、それで自分の身の安全を確保出来なければ意味が無い。

 やるならば、徹底的に言い訳の余地無く付け入る隙無く圧倒的な勝利だ。」

 シェリー君の体は今や指一本動かすのも困難。

 魔法を使おうにもまともな身体強化すら出来ないレベルのガス欠。

 不安定な姿勢で背後を取られている。

 更に残念なお知らせとして、先程使ったH.T.の感電術式のストックは使い切って既に品切れだ。

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