Hollow Tarp その2

 「おぉ、やっと得物を……布一枚というふざけている様にしか見えぬ代物ではあるが、それも良し。

 得物の正体が解らぬ状況下で本気とは良きモノよォ!」

 一瞬呆気に取られ、取り出した物の正体を見て絶望しそうになり、気を取り直して構える。軽率に距離を詰めてこない。

 ああ、布一枚だH.T.。しかし、シェリー君はあの学園で、そしてその後の外で、あらゆる事態に出くわす。ロクでも無い事から救いようの無い事から愚かしい事まで…………そんな悲しき環境下でシェリー君が生き残る事を目的として、その環境を前提として私が作り出した魔道具H.T.だ。

 そんなものが魔力を流す事で空を滑空し、鎧を生み出し、自称そこそこ天才の作り出した装甲を一時的に無効化する程度の代物だと思うかね?

 当然、武器を持った相手に対して抗う武器・・としての形も持っているさ!

 「未だ拙いですが、の扱いはあの後しっかり練習しました。

 如何程通用するかは解りませんが、胸をお借りするつもりで失礼致します。宜しくお願い致します。」

 そう言いながらシェリー=モリアーティーは手にあった布を放り投げる。

 それは無風の筈の室内で何かの力でなびき、シェリーモリアーティーの姿を覆い隠し、少女のシルエットが浮かび上がる。

 シルエットが何か・・を掴む動作をすると、布がシルエットの手の中に吸い込まれていき、何時の間にかその手には藍色の武器・・が握られていた。


 両手でしっかりと持ち、構えを取った。


 「ほぉ……」

 声が出る。全身の拍動が引いた様な気がする。思わず見入ってしまう。

 手に持っている得物の長さは1m、幅は数㎝、表面は先程取り出した藍色の布で覆われているが、中身が見えない。

 見た目は布に包まれた刀剣の類。が、構えた時の様子からして相当に軽い事といい、このタイミングで出てきた事といい、あれだけの大きさのものが急に出てくるおかしさといい、何よりあの台詞と共に出て来た代物がただの刀剣や玩具の類である訳がない事といい、何かしらの仕掛けがある。

 それにしても、武器も感嘆ものだが、本人も隙の無い素晴らしい構えだ。

 構えているのは妙な武器。しかし剣を構える姿は過去に幾人も見た猛者の姿を彷彿とさせる。場所と得物にさえ目を瞑ればまさしく剣士や騎士のそれだ。

 引いた拍動がより強く、爆発する様に強まる。杖を握る手が一度震え、全身が強張って、そして止まる。

 目の前の少女を正視して、少女が壊れる様をイメージし、自分が壊れる様をイメージしている自分を破壊する。

 一瞬だけ全身脱力。そして骨、筋肉、血管を爆発させる。

 今の消耗も、肉体の後先も、刺激の快楽も頭から消え去った。

 今の自分は全盛の頃の自分さえも凌駕する動きをしていると確信する。


 未知の相手、未知の武器、それを叩き潰してねじ伏せるには自分の最高を絞り出すのが最善だと老いた騎士だったものは本能で知っていた。

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