墓碑銘その4

 当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない!

 突きを喰らわせようとした、大振りな攻撃をした、隙の小さい連撃を喰らわせた、フェイントを何度も仕掛けた、その辺の物を投げつけた、持ち手で殴ろうとした、杖を振り回したし、一度は投げもした。

 全て当たっていない、掠りもしていない、表情一つ動かす事も出来ない。

 おまけに外で見ている外野連中は攻撃が空振りする度に拍手する始末。

 挑発か?煽りか?いや違う!


 美しいのだ。


 この状況で、一撃でも当たればそのまま死んでしまいそうな極限状態で、死を避けるその様は逃げ惑う少女のそれではなく、洗練された天女が舞うそれ・・と映ってしまうのだ。

 一撃を避ける度、耳につく拍手の音が一層強くなる気がする。

 それが何故か不快感をもたらさない。それはその称賛の拍手に心の底で同意してしまっているから。

 だから、次の一撃を放とうとする度に考えてしまう。

 次はどんな風に舞うのだろう?

 自分の動きにどう返してくるのだろう?

 どうすればより可憐に、より華麗に、舞い踊って貰えるだろうか?と果敢に考えてしまう。

 当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない、当たらない!嗚呼当たらない!素晴らしい!


 思い通りにならないその光景に、苛立つべき光景と現状に心臓が大きく跳ねる。

 天女の美しさを前に心を奪われそうになり、我に返った。

 違う!違う、断じてそんなことはない!

 ここまで追い詰められた現状に心臓が跳ねているだけ!

 さぁ、享楽に浸ろう。刺激に溺れよう。存分に暴れよう。

 「さぁ、さーぁ!さぁさぁ!

 攻撃せねば永遠終わりはしませぬぞぉ!このまま一晩でも二晩でも踊り狂いましょうぞ!」

 老いぼれた、衰えた、弱くなった。それでも小娘との根比べ程度に負ける程この老体は役立たずになっていない。

 まだやれる。まだ杖を振るえる。まだ暴れられる。まだ勝敗は見えていない。

 心臓はより一層強く跳ね、全身が脈動してその思いに応えた。




 「そろそろ、決着をつける事にします。」

 「手伝いは?」

 「不要です。ご覧になってお待ち下さい。」

 「では、そうさせて貰おう。」

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