情報を持ってきただけなんだけど、もしかして何かやっちゃった?


 オーイは翌日、前日の晩に夜遅くまで診療所を駆けずり回っていたにもかかわらず、早朝に目覚め、出かける準備を始めた。その理由はモリアーティーを探し、皆の無事を伝える為であった。

 早朝に出る理由は簡単。日中、人の出歩く中でモリアーティーを探してしまえば、『オーイがモリアーティーを疑っている』という表向きの構図を見せる事になってしまい、彼女の立場を悪くするから。

 更にそれだけでなく、モリアーティーの居場所を血眼になって探している連中に万一の場合にもあの場所・・・・を気取られない様にする為。

 オーイは思っていた。『もし、モリアーティーがこの村を出ていないとしたら、行く場所はあそこだろう。』と。それは圧倒的地の利があるここの村人が絶対に知らない『地』ではない場所。

 もしこの後の事、彼女が逃げないとしたら、あの場所は知られるべきではない。

 そう思い、家の扉を開けて未だ暗い村の外へと歩いて行った。

 無謀で、無防備で、そして無考えで………行ってしまった。

 そして、森の中でガスの対策を行わず、うっかり酸欠になり、運良く『家』に回収された。という訳だった。



 「取り敢えず、こっちはみーんな無事。だけど確かに、モリーの心証は……良くはないかなー……」

 しかし、オーイ昨晩あった事は言わない。自分がした、実は有意義であった時間稼ぎを誇る事は無い。

 謙虚だから?そんな事はない。

 罪悪感から?少しだけあるだろう。

 しかし、それよりも、自分のした事が如何でも良かったというのが大事だった。

 結果的に、モリアーティーは無事(とは言い難いが)逃げ切れた。それでいいのだ。




 孫娘の言葉を聞いて、自称そこそこ天才とシェリー君の顔が曇り、考え込む。

 「それは中々に『宜しくない事態』と見ていいのかな?」

 「の、ようですね。」

 孫娘の持ってきた吉報。それは一つの厄介事を片付ける上で必須の情報を内包していた。しかし同時に、その厄介事を片付ける事で更なる長期的な厄介事が起きる事が確定した。

 「え?え?え?一体何?二人とも如何したの?何がマズいの?何か私、やっちゃった?」

 頭を抱える二人を見て、一切気付いていない孫娘だけが困惑していた。





 村は殺伐としていた。殺気立っているといっても過言ではないだろう。

 村人達は日々を細々と生きる為に、毒で僅かに弱った体を動かして今日も今日とて食うために動く。

 しかし、一昨日と昨日の件があり、その動きはぎこちなく、見えない何かに怯えている。

 声を掛けても反応せず、だからと肩を叩いたら驚き叫ぶ者が居る。周囲をキョロキョロと見まわし、懐に忍ばせた『何か・・』を撫でる者が居る。何時もは仲の良い二人がいがみ合っている。


 「ッソがぁああああ!痛ッてええええ!」

 凶器をこれ見よがしに見せ付けながら4人1組になって村中を歩き回っている若者が居た。

 ちなみに今の叫びは、ケガをしているのにそれを忘れ、思い切り道の石を蹴飛ばそうとして岩に足を叩きつけた愚か者の叫びだ。


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