スバテラ村 回想終了



 「こうしちゃいられん……謝罪を、そして、お礼を……」

 未だ動ける様な状態じゃない筈なのに、爺ちゃんが無理に立ち上がろうとした。

 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!無理しちゃダメだって!」

 「そうはいかない、命の恩人だ。数々の非礼を詫びなければ……」

 止めても無理に立ち上がろうとする。正直、これを言いたくはなかったけど、仕方ない。

 「モリーは今、ここに居ないよ。今日の件、モリーが犯人だと思ったアホが追い出しちゃった。」

 さっき出て行ったばかりの名ばかり正義集団の暴徒を思い出して苦々しく思い出す。

 「……そうか、そうだったか……ではもう、お礼は、言えないのか………」

 今も萎れている。けど、それを聞いて爺ちゃんが更に萎れた気がする。

 モリーは確かに逃げた様に見える。だけど、短い付き合いだけど、あのモリーが『逃げて終わり』だとは到底思えない。

 必ず戻ってくると、疑わずにいる自分が居る。

 それは『自分の無実を証明するため』じゃなくて、純粋に『犯人を野放しにしておけない』という理由。

 だから、絶対に戻ってくる。多分今も何処か近くに隠れているんだと思う。

 けれど、だからこそ今私は言うべきじゃない。モリーは逃げた。それでいい。

 「……解った。オーイ、こっちは大丈夫。だから手伝っておあげ。」

 爺ちゃんは何か訊きたそうで、だけど何も訊かずにそう言った。

 「今日はもう暗い。だから診療所のを取り敢えず手伝って、明日・・の事は明日・・考えるといい。」

 深くは踏み込んでこない。だけど、私が何を考えているかは解っている、と思う。

 「……解った。取り敢えずモリーにも言われたし、手伝ってくるよ。

 何かあったら声を掛けて。」


 「お祖父様は助かります!ドクジーさんと貴女!皆を2人で助けて…」


 その言葉通り、爺ちゃんは助かった。あの4人に対して出来る事は今の私には無い。モリーに協力出来る事も無い。だから、今やれる事。

 「ドクジー!私に手伝える事言って、やるから!」

 『皆を2人で助ける』をやって、モリーの努力を無駄にしない様に頑張る事。それが今の私に出来る全ての事だ。


 この夜皆に起きた事。

 シェリー=モリアーティーは荷物を何事も無く回収し、自称そこそこ天才の元へと辿り着いた。

 自称そこそこ天才はシェリー=モリアーティーを歓迎した。

 オーイはと言えば診療所で数少ない無事な人手として駆け回り、たった一人で戦っていた。

 青年4人は村中を探して、当然の如く成果は上げられずにそのまま各々の家へと帰っていった。

 他の村人は、苦しむ事はあったが、結局のところ診療所が辛うじて機能したお陰で苦しみだけで終わった。


 《本日の結果》

 被害者:多数

 死者 :0名

 シェリー=モリアーティーの好感度:若干マイナス


 こうして、翌朝を迎えたのだった。



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