悪い事は団体でやって来る9



 「さぁ、抵抗は無意味だ。報いを受けるんだ!」

 こちらに向ける目には迷いも動揺も躊躇いも一切無い。純粋で真っ直ぐ。だがこれは、対話をしようと言葉を投げかけると言葉を跳ね除け強制終了させる性質タチの悪い猪の目だな。

 正しいと信じて疑わないから考え方が足りない。視点が足りない。不足の可能性と不測の事態に陥っている可能性を考えていない。

 「成程、私以外に容疑者が居ないと………」

 まぁ、昨日の件は村の人間村の長が村の人間に毒をばら撒いていたのだがね。

 「ちなみに、本日私は森の調査に出ていて村には居りませんでした。それはご存じでしたか?」

 「知らん!関係ない!」

 「ふっざけんなよ手前ェ!そんなその場凌ぎの嘘がこの俺達に通用するとでも思ってんのかぁ⁉」

 「………。」

 「つまらない嘘は自分の首を自分で絞めるだけだ。僕達は今日森に入っていた。だが君達は見ていない。

 語るに落ちたというところかな?」

 話を聞くフリをしてシェリー君を包囲する。そこそこ時間が稼げたお陰で休め、立て直しに掛かろうとしている。

 「成程、居なかったのですね。ならば、これだけ言って本日はお暇致します。」

 そう言って、学園で見せる様な、フォーマルなお辞儀をして見せる。

 「私が村の方々を傷付けたという事実は存在しません。

 近々、それを村の皆々様に証明して御覧にいれますので、少々お待ち下さい。それでは。」

 お辞儀を隙とでも勘違いした連中が三方向から襲い掛かる。

 鉈は上段から力任せに叩き割ろうとして……シェリー君は消え、空振りに終わった。





 「ハァ!?なんで消えたんだ⁉」

 「何処だ?何処だ?何処だ⁉」

 「…?……?……………?」

 「……皆探すんだ。未だ近くに居る筈だ。絶対に見つけて裁きを下すんだ!」

 辺りを見回して隠れていないか目を凝らすが、広場には隠れられる家や壁は無い。

 少し走れば森に入り込めるが、距離がある。4人の目を同時に掻い潜って飛び込むのは難しい。

 振り下ろした瞬間、いきなり見えなくなった。消えてなくなった。何が起きたか解らない。

 「傷付けた事実が無いから証明する……ね。面白い冗談を言うね。」

 自分は冷静で賢い。だから奇声を上げたり怒号を響かせたりはしない。




 若者は鉈を持つ自分の手に力が入っている自覚が無い。

 「やれやれ、自覚の無い正義気取り程厄介なモノはない。頭が痛くなるな。

 まぁ良い。解決は時間の問題だ。さぁ、では案内に従ってワンダーランドへレッツゴーだ。」

 「はい、では行きましょう。」

 若者連中が目を凝らす中、その真横を堂々と横切る。しかし、誰もシェリー君に気付かない。

 不思議の国へ行くには時計の似合うウサギを追いかける必要があるが、不思議な森へは絡繰り仕掛けのコウモリが案内してくれる。

 「デハ、コノジショーソコソコテンサイノハツメーニツイテクルンダ。」

 頭上で音も無く飛ぶ金属と布で構成された蝙蝠もどきが喋った。




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