解れるか、解けるか
<森の中、自称そこそこ天才の家>
こうして、診療所で記憶喪失の身元不明男と会話した後、用事があるからと老医に得た情報を渡し、孫娘とシェリー君は光学迷彩の移動要塞を呼び出して、孫娘は混乱したまま、シェリー君は茶会を悠々と堪能しているという訳だ。
自称そこそこ天才は考え込む。
「つまり、老医の診断だと記憶喪失の原因は不明。君らが会話から引っ張り出せたのは、その男は自分の事は覚えていない。思い出は忘れているが知識の記憶だけはあるから日常生活に問題は無いという事か……。で、勿論自分が何故あそこにいるかも解らない。この森に居るヤツの情報も無い。男が目を覚ましたという情報だけ、男に関してはそれ以上の収穫は無いという事……か。」
「いいえ、そうでもありませんよ。」
情報過多でフリーズしている孫娘に再起動を促しながら自称そこそこ天才の言葉の過ちをやんわりと否定する。
「ん?今の話だと男の情報は全然無かったと思うのだが、もしかして私は何かを聞き逃していた?」
「いいえ。内部事情を知っている私だからこそ解るというだけです。御説明いたします。
先程申し上げた『淑女の零』という制度なのですが、実はその制度の利用難易度が跳ね上がったのは20年以上前の話なのです。」
淑女が実権を握った後、それまでの様に気軽に『淑女の零』は使われなくなっている。
現在、例外的に使われる程度の、殆ど形骸化している概念な訳だ。
「それを知っていたのですよ。
現在、外部の方々は制度自体を殆どの方が知らず、内部の人間であっても難易度が高過ぎて挑もうとする方が非常に稀。
だと言うのに、『アールブルー学園』という言葉を聞いて、真っ先に出て来たのはそれなのです。」
「あぁつまり、彼は過去に学園関係者であった可能性があると……」
「他の可能性としては、『淑女の零』の全盛期…20年以上前にその制度を利用した事があった……という事も考えられます。」
「どちらにしろ、お嬢様学園に関われた人間の可能性が高い。
やんごとなき身分の御方というヤツか、偉い学者か、豪商か………。」
「似顔絵を情報通の方に見せれば、ひょっとするとひょっとする可能性が有ります。」
「そうすれば身元が判明して、記憶が戻るキッカケが得られるかもしれない……あぁ、だが問題がある。情報のやり取りをどうするかだ。
残念ながらこの自称そこそこ天才は連絡通信機器を作る程度なら菓子作りよりも得意だ……がしかし、情報通の知り合いは作れないし、人とのコネクションは発明出来ない。
そこが問題だな……」
「あぁ、それなら問題ありません。私の知り合いに最新の情報を現地で収集する情報通の方が居ますので、その方に訊いてみます。」
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