温厚な人間が凄まじく怒るのは何故でしょうか?
「『私が来た時には既に村人全員が毒で死んでいた。』学園にはそう報告すれば万事解決です。
強引と思われるかもしれませんが、ご心配無く。私が報告する頃には貴方達は気にする事が出来なくなっていますし、勿論異論を唱える人間は誰一人として居ませんから。心配する必要なんて無くなります。」
淡々と、冷静に、穏やかに話を続ける。
どう考えても脅迫である。言った事がこれから実行されるのであれば、これは凶悪で強大で邪悪な犯罪の決定的証拠に成り得るし、止める絶好の機会である。
しかし、世間話の類の様にそれは穏やかに口から紡ぎ出されている。それが蜘蛛の巣となって二人の人間に有無を言わせず自由も与えずただただ悍ましい計画を流し入れられている。
家の外にこれが聞こえたとして、何の気無しにこれを聞いた者は果たして事の重大さに気付けるだろうか?と疑問に思う程静かだ。
だからこそ、孫娘オーイとその祖父は血管から筋組織に至るまで凍り付いたかの様に固まっている。
殺意を
極度の興奮状態。傍から見ても解る異常性。
故にそんなものがやってくれば人間は本能で警戒出来る。
静かに穏やかに、世間話や今日の予定を口にする様にやってくれば人は警戒出来ない。
そんな世間話が目前に迫った頃、世間話の薄皮隔てた向こうに広がる死体の転がった未来予想を目にした頃にはもう手遅れ。逃げられない程に死神に近付いてしまった。
「…………」
沈黙が最適解どころか最悪手だと知って尚口が動かないのは一体何故なのだろうか?
「正直に話したからと言って怒り狂ってこの村を粛正するなんてことはありませんよ。
こちらはもう貴方のしでかした、あまりに浅ましい行動に気付いているのですから。」
「…………」
命乞いをすべきか?言い訳をすべきか?はたまた喉笛を突いて老いぼれの死体を一つ献上すべきか?
村翁のその思考は全て愚かしい過ちだ。
シェリー=モリアーティーという人間の本質を知っている人間にとって、この脅迫紛いの行動は非常に奇妙に映る。そうでなくとも、今までの彼女の行動と今の彼女の行動はまるで別人。その理由を考えればこの場ですべき行動へ辿り着ける。
本人の性質上、攻撃的な行動や積極的に害意を撒き散らす行動を好まない。しかし、今回のこの行動はどう考えてもその好まない行動に合致してしまう。
それだけの怒りがあったから。
今までも大概怒りに繋がる状況であった。勝手に露骨に幻滅され、敵意を剥き出しにされ、診療所で散々骨折りをして、翌朝眠りを妨げられて斧を突き付けられる。
今になって、
不正解の場合、×が与えられる。現状が補習の様なもの。当然補習の補習は無いからそのつもりで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます