既に全てはこちらの手の内。つまり茶番

 モラン商会が波乱の最中、会長は呑気に優雅に朝食を……取っている様に見えるかね?

 柄の部分が土で汚れた斧、使い込まれて若干錆びているナタや不格好な棍棒こんぼう、さっきまで食材を切っていた包丁に木屑まみれのナイフを突きつけられながら朝食を取るのが常識の世界であれば今のこの状況は立派な朝食風景だろうさ。


 深夜まで存分に人命救助という立派な無償奉仕をした後、シェリー君は家に帰って直ぐ、は叶わなかったが比較的速やかに眠りについた。そのまま朝まで眠る事が出来れば良かったのだが、そう上手くはいかない。

 明け方だというのに、何故かドア前にガヤガヤと人の声が聞こえ、足音と声が仮家の周囲を取り囲んでいるのが聞こえてシェリー君は目覚めた。

 遅寝早起き。健康には非常に良くない。

 更に……

 「オラァ!出ぇて来いクソアマぁ!」

 目覚めて直ぐに聞いた言葉がコレ。あまりに品性を欠いているお陰で朝から頭を抱えて呆れる他無い。

 そうして、扉を開けた結果、例の風景が広がっていたという訳だ。

 前衛は殺意満々で各々が持ち寄った凶器を持ち、目をギラギラとさせている。『自分達を害する輩と戦って徹底的に滅する』という目的で凶器を持ち、いざとなれば……と虚勢で考えるだけ考えている輩。要は闘争心が第一にある連中だ。そして勿論、先頭に立っているのは若者衆や孫娘。

 その後に続く連中は各々凶器を持っているが、最前の連中程の敵意と殺意を抱いている訳ではない。しかし、疑りと恐怖が入り混じり、それが敵意となっている。即ち自分を害する者から自分を守る『自衛』が第一にある連中だ。

 そしてその周り。前の連中が理性の完全に吹き飛んだ『暴徒』だとしたらこれらの連中は『野次馬』と称するべきだ。

 武器や凶器の類は持たず、騒ぎに流され、好奇心が足を動かすままにやって来た連中、あるいは罪悪感を前面に押し出したこの凶行の反対派。

 反対派に関してはその大半が昨日診療所で診た顔ばかり。

 こいつらは前の連中に臆して声を上げていない。『いざとなれば助けよう』と自分に言い聞かせているだけの連中。

 ここでもし、シェリー君が本当に流血したとしても、お前達はどうせ割って入る事は無い。

 ポーズをして罪悪感を減らし、自分を可愛がっている邪魔なだけの連中だ。


 さて……これは一体どういうことだ?

 「まるで『昨日の毒キノコ事件の犯人がシェリー君だァ』とでも言って攻め立てそうな雰囲気ダナー。」

 「教授、わざとらしいですよ。」

 まったくもってあまりに遅い。

 「お前が昨日、我々の食事に毒物を入れた犯人だと解かっているゥ!観念してバァツを受けるがいいぃ!」

 斧を人の顔の前に突き出した。


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