首を突っ込むのは主人公の特権ではあるが

 老医の診断を聞く限りでは到底酸素欠乏症による症状ではない。

 『命に別状は無く、障害が残りそうな様子も無い。ただし意識が戻らないしその理由も解らない。』ということだ。

 稀にうなされて言葉にならない言葉を呟いているだけ。未だに意識は戻らないが他に目立った症状は無い。木の枝や木の葉由来の切り傷があるくらい。

 衣服や持ち物は診療所にあるからとそちら側の現物は確認をしたが、身分証の類は無かった。

 衣服自体は森の中を進む内に枝で引っ掛け草木の露や汁、泥で汚れているものの上等な代物。一行商や旅人が着ている代物と考えるのはどうしても不自然だ。

 「……間違ってもこんな辺鄙な場所に来る時に着るべき代物では無いですな。」

 シェリー君が衣服を観察しているのを見て後ろから覗き込んでそんな事を言う老医。

 森を抜けた街道側は交通の便が良く、豪商や貴族が通ったところで不思議ではない。

 が、森にわざわざ足を踏み入れるのは不自然極まりない。

 「確かに、不自然ですね。不自然で奇妙です。

 ですが、情報は少なく決定的な物品は無く、不完全な考察は混乱と致命的なミスを生み出してしまう可能性があります。

 命に別条が無いのでしたら、意識が戻るのを待って確実な情報を得るとしましょう。」

 『日に日に』という表現を使うのは相応しくない程度には面倒事が増えに増えている。

 森の自称そこそこ天才の正体が割れた事はプラスに働く事だが、森の怪物問題は解決していない。

 そもそもそれらが無くなっても風評被害は拭えない。

 これらの問題が共通の原因から発生していようがいなかろうが面倒の数は減らない、消えない。

 そして、今回のこの集団中毒という現象が更に目の前で発生した。

 「まったく、厄介事が次から次にやってくるものですな。

 昏倒事件といい、今回の食中毒事件といい、物騒極まりない事ばかりが起きている。

 シェリー嬢もどうかお気を付け下さい。」

 「中毒、『事件』?」

 残念な事に、私のき教え子シェリー=モリアーティー嬢は慢性で不治の極めて厄介な病気を二つ抱えている。それは『お人好し』。『お節介焼き』のだ。しかも最悪な事に両方とも重症も重症。末期と言っても過言では無い程度には酷い患者だ。

 だから当然、地元民が何故か集団で同じ様な症状の中毒を起こしている事を疑問に思いつつ黙って人助けに尽力してドクター然とする努力をしていたが、今はもうドクターとして振舞わなくても良い環境が出来上がっている。

 「あまりに多くの出来事があって、訊くのが遅れてしまいましたが、ドクジーさん今日起きた出来事は集団食中毒で事件とお考えなのですか?」

 シェリー君の目の色が変わった。


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