風が吹いて景色が見えて
明け方、村の人間が目覚める前にシェリー君は準備を終えて森の入り口に来ていた。
朝食?あぁ、最悪の事態に対応すべく、荷物の中にある程度の兵糧攻め対策が忍ばせてあった。
一食分を既に口にして、一食分を懐に忍ばせてここに来ている。
「矢張り転がりましたね。」
昨日の内に石を加工して作っておいた球が森の木々の間を縫う様にして森の奥へとアッという間に転がって消えていった。
「相当慌てていた事が分かるね。さて、反省は後だ。警戒して行こう。」
その言葉に対する返答は沈黙。シェリー君はH.T.を取り出してゆっくりと進んでいった。
森には相変わらず生き物の気配が無い。光は木の葉で遮られて相変わらず視覚情報が大きく制限されている。更に、昨日より風が強い所為で木の葉の揺らぐ音が煩わしい。
そんな中を歩く、歩く、歩く。緩やかな下り坂を下りる様に歩いていく。
傾斜だと解っているから昨日程の眩暈は起こさない。
森は背後の村の姿を隠し、徐々に太陽は昇っているが、森の中は相変わらず暗いまま。
「…………何も起きませんね。」
眩暈が起きない。酸欠の症状が出たら即刻H.T.を使って木の上に上がる事になっているのだが、その兆しは無い。体調不良の症状が一切無いのだ。
周囲を見回してみたが、怪しい奴の影も形もない。
相も変わらず下り坂は続いているし、ルートを大幅に変えたという事もない。
昨日はもっと手前で症状は起きていたし、招かれざる客も居ない。
「耐性がついた?毒ならまだしも酸素欠乏症ですし、それは無さそうですね。
例のあれがガスの発生源で、警戒しているからガスもあれも居ない?
違いますね。そうであるのならもっと確実にガスを使って攻撃していたでしょう。
そうなっていたのなら、私は無事では済みませんでした。
では………」
警戒心は解いていない。しかし、警戒した上で思考を巡らせている。
ここは窪地の最も深い部分で、ガスが充満しているのならとっくにガスによる酸素欠乏症になっていた。
あぁ、今ここにガスは充満していない。それは
「『霧』ですか?」
「あぁ、そういう事だ。」
昨日森に出ていた霧の正体。それはななな、なんと、それこそが、それこそがガスの正体であったぁ。
霧が出ている時にだけ例の症状が発生していたんだ。気付くものも居るだろう?
「では今、ここを歩いてもガスの確認は出来ないと…」
「実際その通りだろう?ここまでずっと歩き続けて酸素欠乏の症状は無い、怪物も出てこない、このまま歩くだけでは収穫無しだ。
今はこの風で、ガスが吹き飛ばされている訳だ。だからこそ、逆にこれはチャンスではないかね?
こんな状況で霧が出ている場所があるとすれば……」
「成程、ガスの場所を特定出来ると……」
さて、ガスの発生源の探索開始だ。
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