一歩先へ進もう

 「私が出会ったあの……正体不明の存在が彼らである可能性は………無さそうですね。こんな事をする理由がありませんから。

 だからこそ非道い。未知が満ち溢れているというのに、そこに子ども達を無策で送り込むなんて………」

 連中にそれだけの技術力と魔法能力があれば僻みや負け犬の遠吠え無しで『俺達は自分達の力でこの村を立て直せる力がある。』が真実であるべきだ。

 あれだけのものを個人や限界集落レベルで作り出していたのならこの世界でも軍事的な意味で放っておかれはしない。村は潤っていた。

 もっとも、この村の致命的な崩壊理由がそこにあるから、自分で自分を砂漠に叩き込み、自分でオアシスを作った訳だが。

 「知らないから無策で突っ込ませる事が出来るのさ。」

 超重量でありながらも木の上を高速で移動し、移動しながら視覚情報まで誤魔化しが出来る。そして部品の取り外しも可能。最低でもそれが居る。

 「村人達は本当の意味で脅威を理解していない。最高戦力たるこちらに協力する事は……大半が敵対する気満々だな。」

 言っておく。森で出会った多脚とシェリー君がたとえ透明化を切った場合で正面からやりあったとしてもスペック差で押し切られる。

 あれがもし本気で殺しに来たら、死ぬぞ。

 「どうするかね。逃げるかね?あれ相手に強引に森を突っ切って逃げる程度なら出来るだろう?」

 木の上の機動力は確かに脅威だった。立体的に動き回る事が出来、地の利が向こうに有り、そして……

 しかし馬車が通る様な轍のある地面では移動の痕跡を残さず動く事は困難。足跡や土埃で見える。立体的な動きも出来ない。ある程度の自壊覚悟で逃げに徹すれば一人だけなら無事。なんだが、やらない。

 「知っていますよね、やりますよ。たとえ皆さんが敵であろうと、私が皆さんの味方を諦める理由にはなりませんからね。」

 ですよねー。

 「ではどうする?この状況下でまともな弁護は聞き入れられない。いきなり極刑というのも飛躍した発想とは言い難……」

 私の言葉が終わる前にシェリー君は前に出る。

 「謝罪の言葉かな?だとしたら無駄だよ。もう君は既に取り返しのつかない事をしたんだ。もう観念してさっさと尻尾巻いて……」

 この状況下でぬるま湯に浸かったお嬢様学校の生徒が反撃に出るとは考えていない。泣き出しもせず、真っ直ぐに相手を見て、前に出たからこそ、先頭の偽善若者が後ろに下がる。

 囲まれている危機的状況にある小娘一人が何を出来るか?

 それは違う。人を一堂に集めて小娘の言葉を一斉に聞かせる、これは好機だ。

 「私がやったという確信があるのなら、然るべき場所へと突き出して罪相応の罰を与えてください。もし、貴方にその覚悟があるのでしたら……ね。」

 一歩先へ進んだ。

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